『石子と羽男』が説く、弱者が声を上げる勇気と希望 有村架純と中村倫也が乗り越えた試練

『石子と羽男』が説く、弱者が声を上げる勇気

 この社会には、様々な形の「弱者」と呼ばれる人がいる。トラウマを抱える人、親に虐げられている人、正しい情報を得られずに騙される人、行くあてもなく彷徨う未成年者……。きっと「強者」だと言われている人も、より強い人から見れば弱者になりうる。『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)では、そんな弱者が声を上げる勇気を説いてきた。そして同時に、きっと正しく生きていれば傘を差し出してくれる人はいるのだ、という希望も。

 『石子と羽男』第9話は、これまでいくつもの事件を乗り越え、バディとして息が合ってきた石子(有村架純)と羽男(中村倫也)にとって、大庭(赤楚衛二)の逮捕という最大の試練がやってくる。放火殺人の容疑をかけられた大庭は「自分がやった」と言ったきり黙秘を続けて、埒が明かない。もちろん石子と羽男には彼がこんな事件を起こすとは思えない。それは視聴者も同じだ。

石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー

 パラリーガルでは直接大庭に会うことができない。そんな歯がゆさから、石子が羽男に八つ当たりをしてしまうが、やはり2人には着実に築き上げてきたものがあった。これまで2人で事件を解決してきたように、大庭にあてた石子の手紙を羽男が朗読する。石子のアイデアと羽男のパフォーマンス、2人で1つとなってクリアしてきた日々。その集大成とも言える渾身のシーンだった。

 その言葉に胸を打たれた大庭が吐露したのは、弟・拓(望月歩)を守りたいという思い。人とコミュニケーションを取るのが苦手で、モノの置き場所や配列に強いこだわりを持ち、書道に長けている拓……そんな彼の特性から、ある診断名が思い浮かぶ人もいたかもしれない。しかし、あえてそう説明しないところに、このドラマの信念を感じる。

石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー

 その診断名がついているから「弱者」ではない。あくまで不意に事件に巻き込まれた「弱者」が、たまたま拓だったということ。ただ、その特性ゆえに簡単に声を上げられないというケースもあるのだ、という理解を広めようとしているように思えた。

 そんな拓を前に羽男は、石子になら話せるようになるのではないかと考える。それは羽男自身が石子の存在によって、予期せぬ事態にも手が震えなくなったから。石子は震える手を安易に握ったりはしない。羽男にも、そして拓にも。そっと隣に座って、相手から話しかけられるのを待つ。むやみに“踏み込まない”という優しさ。それは羽男の「何を考えているのかわかりにくい」と言われてしまう“見えない”優しさを思い出させるものでもあった。

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