元ナチス市民の証言に潜む“無邪気さ” 『ファイナル アカウント』は今観るべき一作

 しかし、映画も終盤に差し掛かった頃、そのトーンは、にわかに緊張感を帯びていく。元・武装親衛隊の隊員でありながら、自らの過去を深く恥じている「良心的な」人物と、若者たちの「座談会」のシーンだ。そこで若者たちは、思いがけない反応をする。若者たちは、ここぞとばかりに老人を糾弾し始めるのだ。「あなたはドイツ人であることを恥じている」「あなたは、君たちに責任はないと言いつつ、我々を非難する」「俺もドイツ人だ。俺たちも一生恥じなくてはいけないのか」「国を恥じないと犯罪者扱いだ」「国を誇りに思う者を、あなたは断罪するだろう」。

 しばし呆然としつつも、彼らと対話することをあきらめない老人は、「そんなことはない」と若者たちに食い下がりながら、最後にこう言うのだった。「私からのお願いだ。目をくらまされるな」と。これもどこか既視感のある光景であるように思えるのは、きっと気のせいではないだろう。

 映画の公開を待たずして、2020年6月に他界したルーク・ホランド監督は、本作に込めた思いについて、こんなコメントを遺している。

「私の願いは、人々が歴史的重要性について考えるだけでなく、極めて複雑な今日の世界における自分自身の位置づけについて考えることです。自分が犯罪に加担していることに、どうすれば気づくことができるのか。私がインタビューした人々の中に、事態が深刻化するまで自分が恐ろしい犯罪に関与していると気づかなかった人がいるのはなぜなのか。この映画が、このことを考えるきっかけになればいいと思います」(※)

 その言葉は、あくまでも重く――否、重いだけではなく、まさに今、我々が考えるべきテーマなのかもしれない。

参照

※. https://realsound.jp/movie/2022/07/post-1084974.html

■公開情報
『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』
8月5日(金)TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー
監督・撮影:ルーク・ホランド
製作:ジョン・バトセック、ルーク・ホランド、リーテ・オード
製作総指揮:ジェフ・スコール、ダイアン・ワイアーマン、アンドリュー・ラーマン、クレア・アギラール
アソシエイト・プロデューサー:サム・ポープ
編集:ステファン・ロノヴィッチ
追加編集:サム・ポープ、バーバラ・ゾーセル
音楽監修:リズ・ギャラチャー
2020年/アメリカ=イギリス/ドイツ語/94分/カラー(一部モノクロ)/ビスタ
配給:パルコ、ユニバーサル映画
宣伝:若壮房
(c)2021 Focus Features LLC.
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/finalaccount/

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