『ベター・コール・ソウル』運命が動く“長き夜” ガスが冷酷無情な麻薬王へ

 そのラボの地中にはラロ・サラマンカと、ジミーとキムによる悪事のため居合わせることとなったハワードの死体が埋められる。共に骸と化せば命の収奪をした関係は消失し、まるで一対の存在のように穴底に横たわる。『ブレイキング・バッド』シーズン3〜4でも重要な舞台となるラボに、こんな怨念が込められていたのかと戦慄した。ここから『ブレイキング・バッド』を見直すと、あらゆるシーンの意味合いが異なって見える。ガスがボックスカッターを振るった『ブレイキング・バッド』シーズン4の第1話は、彼が最も残忍さを発揮できる場として自負すら覚えているように見える。そしてラボに入り込んだハエを追いかけるだけという、異色のシーズン3の第10話を観てほしい。全62話のシリーズ折り返し地点に位置するこのエピソードで、ウォルター・ホワイト(ブライアン・クランストン)は「あの時、こうしていれば……」と自由意志と運命を嘆く。アルバカーキサーガにおいて、ラボほど重要な物語にふさわしい場所はないのだ。

 夜が明け事態が収束すると、放心状態のジミーとキムに向かってマイクは言う「なかった事にするんだ。全て」。しかし、事の顛末を知らないジミーは「戻ってくる」と言い残したラロを忘れることができない。『ブレイキング・バッド』シーズン2の第8話、ウォルターとジェシー(アーロン・ポール)に銃を向けられたソウル・グッドマンはとっさに「ラロがおまえ達を送ったのか?」と口走る。ソウルの用心深さはラロという絶対的な死の存在に怯え続けていたからであり、それはシナボンの店長ジーン・タカヴィクとして世を忍ぶ現在も変わらないのだ。

■配信情報
『ベター・コール・ソウル』シーズン6
Netflixにて配信中
(c)Joe Pugliese/AMC/Sony Pictures Television

関連記事