『初恋の悪魔』『拾われた男』の2作で主演 “受容力”の役者・仲野太賀の快進撃が始まる

 7月16日から放送を開始する『初恋の悪魔』(日本テレビ系)、そして現在3話まで進んでいる『拾われた男』(NHK BSプレミアム/ディズニープラス)と、主演作が今クール2作も放送される仲野太賀。今、最も注目されている俳優と言って間違いないだろう。

 「華があるよね」ーー。仲野が、盟友である菅田将暉や染谷将太について、茶化し半分、本音半分でぶつけていた言葉が印象に残る。つまり「自分は華のあるタイプの役者ではない」と自覚しているのだろう。また10代の頃には、一足先にブレイクしていた菅田や染谷に「嫉妬していた」と、折にふれて吐露している。青臭かった過去を振り返ってのこととはいえ、これを正直に言えてしまうところも、仲野の役者として器の大きさを表してはいないだろうか。

 「受容力」。そんな形容が似合う俳優である。「受け」の芝居が抜群に巧い。共演者の発信するものを的確にキャッチし、さらに相手の魅力を引き出すほどの技術を持っている。全体を俯瞰しながら作品のクオリティを下支えする存在と言え、バンドで喩えるならボーカリストやギタリストなどの“フロントマン”ではなく、ベーシストのようだ。作り手に言わせれば、全幅の信頼を寄せて、どんな役も投げられる存在ということだろう。

 今年で芸歴17年目。年齢とキャリアを重ねるごとに、着実に演技力に磨きをかけ、長らく「若手名バイプレイヤー」「盤石の二番手」として引っぱりだこだった。そんな仲野が、ここ数年で一気に増えた主演作でもしっかりと爪痕を残している。今クール主演ドラマ2本もむべなるかな。いよいよ仲野太賀の時代がやってきたのだ。

 2006年、13歳の時に『新宿の母物語』(フジテレビ系)でドラマデビュー。2008年に『那須少年記』で映画初主演を果たし、戦後を生きる素朴な中学生を演じた。しかし、以降数年は、出演作品数は多いものの、端役・脇役ばかりで、仲野自身、「迷っていた」「とにかく悔しくてしょうがなかった」と当時を振り返っている。この“苦節”の間に研鑽を怠らず、乗り越えたからこそ、今の仲野太賀があるのだろう。

 アカデミー賞受賞作品『桐島、部活やめるってよ』(2012年)では桐島の代理でバレー部のレギュラー入りするも、桐島との実力差に鬱憤を抱える小泉風助を演じ、短い出演シーンながら作品のアクセントとして印象を残した。以後、徐々に映画・ドラマ・舞台の出演を増やしていく。いかなる作品に出ても、ごく自然に世界観に溶け込むのに、その反面でどこかに「引っかかり」を残す。しだいに、「あの俳優、なんだか気になる」という存在になっていった。

 仲野太賀を最初に広く知らしめた役といえば、やはり『ゆとりですがなにか』(2016年/日本テレビ系)の山岸ひろむ役だろう。主人公・坂間(岡田将生)を脅迫して追い詰める“ゆとりモンスター”山岸の、背筋の凍るようなリアリティに多くの視聴者が「クソムカつく!」と憤懣した。しかしその怒りの声こそ、役者冥利に尽きる褒め言葉ではないだろうか。それほど真に迫った演技だったということだ。仲野の“怪演”が評判を呼び、翌年には彼を主役に据えたスピンオフドラマ『山岸ですがなにか』がHuluで配信された。

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