映画初主演の磯村勇斗が体当たり演技 ”奇妙”だが現実のように感じられる『ビリーバーズ』
「ビリーバーズ」とは「信じる者=信者」という意味だが、本作ではストーリーを通して「信じる」ことの尊さと愚かさを同時に表現している。幽霊も、妖精も、宇宙人も、「信じる」ことは「存在を認める」ことに他ならない。信じた者には、違う世界があり、信じた者にだけ見える世界がある。
原作者は、さまざまなドキュメンタリーでも描かれた、とある宗教団体を基にしたという。「修行」と称した行動はエスカレートし、犯罪行為までも正当化する。本作でも、常軌を逸した信者がさまざまな事件を起こす。その描写も妙にリアルで息を飲む。「信じる」ことは尊く、愚かで、同時に怖いものだと感じる。
映画でも、原作でも、3人の過去は詳しく描かれない。描かれないからこそ、時には自分に重ねて、想像力が働く。彼らのちょっとした過去は「幻覚」という形で目の前に現れる。しかし「幻覚」は消える。彼らの過去は、「消えてしまったも同然」という暗喩なのだろうか。
過去の回想シーンもなく、自然音と3人の会話で時系列通りに進んでいく本作は、もはや、映画ではなく録画を観ているのでは? と思わされるほど奇妙だ。繰り広げられる展開は、密閉した箱に閉じ込められた虫が共食いをし始めるような悍ましさがある。
初主演の磯村をはじめ、3人の体当たりの演技が重なりあって、奇妙な世界が、実は日本のどこかで起こっている現実のように感じられる。北村は今回オーディションで抜擢されただけあり、堂々たる演技が凄まじい。磯村の演技力はもちろん、宇野の常識そうで非常識な人物の表現力には狂気さえ感じた。
本作は、映画独自の脚色を加えず、原作を忠実に映像化している。原作の毒々しさを、ありのまま映像にしているだけに、異質さや奇妙さがダイレクトに伝わってくる。原作ファンも、映画だけ観ても、十分に満足できる作品ではないだろうか。
劇場で「ニコニコ人生センター」の信者たちの生活をぜひ疑似体験してほしい。
■公開情報
『ビリーバーズ』
テアトル新宿ほかにて公開中
主演:磯村勇斗、北村優衣、宇野祥平、毎熊克哉、山本直樹
原作:山本直樹『ビリーバーズ』(小学館『ビッグスピリッツコミックス』)
監督・脚本:城定秀夫
音楽:曽我部恵一
主題歌:曽我部恵一「ぼくらの歌」(ROSE RECORDS)
制作プロダクション:レオーネ
配給:クロックワークス、SPOTTED PRODUCTIONS
2022年/日本/カラー/5.1ch/シネマスコープ/118/R-15
(c)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会
公式サイト:https://believers-movie2022.com/