又吉直樹が描く“おかしみ”が寄り添う WOWOWドラマ『椅子』で触れる、笑いの多様性

 大の椅子好きとして知られる又吉直樹が、“椅子”と“女性”をテーマに物語を描いたオムニバスドラマ『WOWOWオリジナルドラマ 椅子』。吉岡里帆、モトーラ世理奈、石橋菜津美、黒木華といった4人が、まったく異なる主人公を2話ずつ演じる物語は時に難解で、時に懐かしく、時に悲しく、心の奥底をそっと触られるようなざわめきを残しながら展開していく。

 又吉直樹は、2003年に綾部祐二とお笑いコンビ「ピース」を結成。若手の頃は劇場を中心に活動し、2010年に『キングオブコント』『M-1グランプリ』というお笑いの賞レースでファイナリストとなり、全国的に注目される存在となった。又吉個人としては芸人の活動にとどまらず、2015年には初めて手がけた小説『火花』(文藝春秋)で芥川賞を受賞。相方・綾部の渡米によってコンビの活動を休止してからも積極的にコントを作り続けており、2019年には後輩芸人たちとのユニットコント『さよなら、絶景雑技団』での公演やYouTubeチャンネル『渦』などにて披露している。

 又吉は今作について、インタビューで「人の中にあるどこか滑稽な部分であり、悲しみを描きたかったのです」と話している(※1)。

 第1話「電球を替えたい」では他者には公言できない異様な癖を、第2話「最高の日々」ではコンプレックスを、第3話「海へ」では変わらぬ友情を悲しみとともに、第4話「オモイデ」では自己完結さとすれ違いを描いている。すべての物語がわかりやすく作られているわけではないが、“滑稽”と“悲しみ”のいずれかを軸とすることで、誰しもが心の奥底に潜ませている、繊細で敏感な感情にそっと触られているような感覚を抱かせる。

 6月24日に放送を迎える第5話「まぼろしの」は、町工場で働く主人公・加奈(石橋菜津美)の自宅へ、念願だった椅子「ルイ・ゴースト」が届くところから話は展開していく。憧れの椅子を前に嬉しさを噛み締めているところへ、ドアをノックする音が。「開いてます」と声をかけると、いきなり制服姿の見知らぬ小学生・千絵(白鳥玉季)が玄関のドアを開けて入ってくる。

 一方、第6話「雨が降っている」は、血に濡れた洋服を身につけ、台所の流しで手を洗う主人公・泉(石橋菜津美)と、同じく血に濡れた洋服をまとい、「ネイビーチェア」に腰掛けた夫の優太(中村蒼)という2人の会話から物語はスタートする。

 第5話は友人関係の悩み、第6話は夫婦のすれ違いという悲しみが軸となった物語だが、2つの物語に共通するのは「後悔」。加奈は小学生の頃の友人を助けられなかった苦い思い出を、泉は夫・優太の気持ちや意志を慮れなかったことを悔やみ、口にする。いずれの物語も加奈と千絵、泉と優太という2人だけの会話によって、始まりでは触れられていなかった真実へと辿り着いていくのだ。

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