歌い手×音楽アニメは相性抜群! 『パリピ孔明』の大成功で証明された歌唱担当のニーズ

『パリピ孔明』歌い手×音楽アニメは相性抜群

 このような歌唱キャストと声優を分けるという試みは過去の作品にも数多く見られる。例えば『マクロスF』に登場するシェリル・ノーム役は、声優とシンガーがそれぞれ別のパートを担当しており、これは『マクロス7』に続く手法でもある。シェリルの歌を担当するのは歌手のMay'n。美貌と美声を持つトップシンガーというシェリルが持つキャラクターの特性上、声優の演技に加えてプロとしての歌唱力の高さが重要な要素として求められたことは想像に難くない。

 またTVアニメ『Angel Beats!』内に登場するバンド「Girls Dead Monster」2代目ボーカルであるユイの歌唱担当に、現在ではアニソン界の歌姫として確固たる世界観を築いているLiSAが抜擢され、一躍有名になったことも声優とは別のシンガーを起用する流れに拍車をかけた。ちなみに挿入歌「Crow Song」にはmarinaが歌唱を担当する初期ボーカルの岩沢が歌うバージョンとユイが歌うバージョンがあり、どちらもヴォーカル力の高さは言うまでもないが、自分好みのカバーを見つけることができるのも一つの楽しみ方だろう。

 そのほか、近年で言えば『Vivy -Fluorite Eye's Song-』で主人公のヴィヴィの歌唱を八木海莉が、『ガンゲイル・オンライン』ではReoNaが歌唱担当に当たるなどの例が挙げられる。作画や原作からの展開を含むアニメ業界全体の盛り上がりも含めて、近年の音楽アニメにおける劇中歌へ求められるクオリティのレベルはますます上がっている。

 昨今は動画配信の文化が主流となり、「誰もが発信できる時代」になった。顔を出さなくても、プロでなくても、最低限の機材さえ揃えば自分の歌を聴いてもらえる環境が整いつつある。視聴者の視点から見てもサブスクや動画配信を含め、あらゆる形でレベルの高い音楽を手軽に享受できる。紅白歌合戦にネットシーン出身のアーティストが選抜されたり、TikTokやYouTube上でアマチュアでも技術的に歌の上手い人が散見されるようになったことこそ、アニメというフィクショナルな空間の中とはいえ、プロの歌手を演じることのハードルが上がってきている大きな要因ではないだろうか。

新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)

 この歌唱担当ブームの直近の動きで言えば、アニメ映画『ONE PIECE FILM RED』(8月6日公開)でヒロインの歌姫ウタの歌唱担当を、代表曲「うっせえわ」で人気に火をつけたAdoが担当することで話題となった。Adoもまた96猫やLezel同様「歌い手」からアニメ市場に参入する形となった歌手であり、音楽系アニメの歌唱担当は夢を追う歌唱ジャンルのアーティストにとって、ひとつのキャリアの道筋となり始めているのだろう。

 今後「歌ってみた」や「踊ってみた」のカルチャーシーンへの注目度はより一層高まっていくことが予想される。プロとして活躍するためのルートが一つではなくなった今、歌唱動画の再生回数や、いわゆる「バズり」によって夢を叶えるチャンスをつかむアーティストもより一層増えていくはずだ。歌唱担当は若手のアーティストが夢を叶える新しいステージであるとともに、年々クオリティを上げていくアニメ作品で視覚に頼らないキャラクターの魅力づけを実現する方法の一つとして、今後も様々な音楽系アニメで設けられていくことだろう。

■放送情報
『パリピ孔明』
TOKYO MX、MBS、BS日テレにて放送中
キャスト:月見英子(CV.本渡楓/歌唱.96猫)、諸葛孔明(CV.置鮎龍太郎)、KABE太人(CV.千葉翔也)、久遠七海(CV.山村響)、オーナー小林(CV.福島潤)
原作:四葉夕卜・小川亮(講談社『ヤングマガジン』連載)
監督:本間修
シリーズ構成:米内山陽子
キャラクターデザイン:関口可奈味
プロップ設定:宮岡真弓、牧野博美
美術監督:東潤一
美術設定:藤井祐太
色彩設計:江口亜紗美
3D監督:市川元成
撮影監督:富田喜允
編集:高橋歩
特殊効果:村上正博
音響監督:飯田里樹
音楽:彦田元気(Hifumi,inc.)
音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ
アニメーション制作:P.A.WORKS
製作:「パリピ孔明」製作委員会
(c)四葉夕卜・小川亮・講談社/「パリピ孔明」製作委員会
公式サイト:https:// paripikoumei-anime.com
公式Twitter:@paripikoumei_pr

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