『シン・ウルトラマン』賛否両論のさまざまな要素を検証 日本映画としての“課題”も

『シン・ウルトラマン』賛否両論の要素を検証

 そして、言及しなければならないのは、長澤まさみが演じた、禍威獣特設対策室(禍特対)分析官・浅見の描き方についてである。オリジナル版にもあるように、本作では女性隊員が巨大化するという展開が用意されている。

 そこでは、胸の部分のアップや、スカートの中を意識させるような、どう見てもセクシーさを強調した演出が見られる。もともとオリジナル版に、このような“お色気演出”が無かったことから、なぜ子ども向けとしての意味が強い作品にもかかわらず、あえてこういった描写が必要だったのかという否定的な意見が、少なくない数の観客から寄せられているのである。

 その他にも、浅見は自分や他人の尻を叩く癖があるキャラクター設定となっていたり、風呂に数日入っていない体臭を嗅がれてしまい羞恥するという、いかにも“おっさんくさい”場面が用意されている。ちなみに、仕事を理由に風呂に数日入らないというのは、アニメ製作現場で働く庵野秀明自身のエピソードであり、それを政府のデスクワークをこなすキャラクターの個性としてしまうのは無理があるだろう。

 これらの場面が問題なのは、女性の観客が本作を観てセクハラを連想したり、地球を救うヒーローに憧れる小さな女の子が本作を観ることを、想定していないということである。

 かつて樋口監督は、ギレルモ・デル・トロ監督の『パシフィック・リム』(2013年)の上映イベントで、女性が観客席に多く座っている状況を見て、「すごい女子率じゃないですか! 怪獣やロボットは俺たちのものであって、君たちのものじゃない!」と、冗談めかして言ったところ、女性の観客を中心に反発を受けたことがある。

 ここからも理解できるように、1980年代の「DAICON FILM」時代に象徴される、“メカと美少女”の組み合わせに、ある種のロマンを感じていたSFファンである庵野監督や樋口監督は、そこにクリエイターとしての世代的なアイデンティティがあることも確かであり、作家性のなかでそういった要素が不可分となっているところがある。

 しかし、オリジナルの『ウルトラマン』では、そのような描かれ方がされていなかったことを考えると、現代の目で本作を観たときに、この部分については、とくに若い世代や女性の観客の目には、むしろ“前時代”なものに映るのではないだろうか。

 劇中ではメフィラス星人が、巨大化した女性をローアングルから撮って動画サイトにアップする人々の品性下劣さを軽蔑する描写があるが、作り手自身が、そんな軽蔑される人々と同じような撮り方をしているというのは、皮肉としか言いようがない。それは、作り手側の屈折した自嘲と捉えることもできるが、そもそもこの演出自体、テーマに寄与していないのはもちもん、娯楽作として、より広い観客に楽しんでもらうことを拒否している、邪魔なものとしか感じられないのである。

 オリジナル版の精神を現代の観客に披露するということが本作の試みであるのなら、本作は余計な要素を入れてしまっていることで、自ら『ウルトラマン』に泥を塗ってしまった部分があると言わざるを得ない。そしてこれが、庵野秀明によるものなのか、樋口真嗣によるものなのか、それとも二人の責任に帰するものなのかが、いまいち判然としないことが、本作の構造的な問題でもある。いずれにせよ、このような世代的な認識は、「シン」シリーズばかりでなく、日本映画が乗り越えなければならない課題の一つであるといえよう。

■公開情報
『シン・ウルトラマン』
全国公開中
出演:斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、田中哲司、西島秀俊、山本耕史、岩松 了、嶋田久作ほか
企画・脚本:庵野秀明
監督:樋口真嗣
准監督:尾上克郎
副監督:轟木一騎
監督補:摩砂雪
撮影:市川修、鈴木啓造
美術:林田裕至、佐久嶋依里
VFXスーパーバイザー:佐藤敦紀
ポストプロダクションスーパーバイザー:上田倫人
アニメーションスーパーバイザー:熊本周平
音楽:宮内國郎、鷺巣詩郎
主題歌:「M八七」 米津玄師
(c)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (c)円谷プロ
公式サイト:https://shin-ultraman.jp/
公式Twitter:@shin_ultraman

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