『17才の帝国』破格のSFドラマはいかにして作られたのか 訓覇圭×佐野亜裕美に聞く

『17才の帝国』プロデューサーインタビュー

届くたびに“ドキッ”とした吉田玲子の脚本

――サンセット・ジャパンという状況が、ここ数カ月で妙にリアリティが増してしまいましたよね。

佐野:急にドラマと現実が地続きになってしまったのは計算外でした。円安も一気に進んで株価も下がっていますし。むしろそこはフィクション感が欲しかったところなんですけれど。

――「没落していく日本」と正面から向き合った作品ですよね。そこが一番リアルだと感じます。

佐野:やっぱり辛いですよね。NHKだと取材がたくさんできるので「2030年の日本がどうなっているのか?」という話を様々な立場の方に伺ったのですが、その時点ですでにヤバい状態なわけですよ。そのヤバい状態を最初に描くのは中々つらいものがありました。

――第1話、第2話は、政治シミュレーション番組として見ていたのですが、第3話から急に人間ドラマに舵を切ったのが面白くて。

佐野:「こっち? こっちに行くの?」という驚きが、私たちも初稿を読む度にありました。

――染谷将太さんが演じた鷲田照の印象は第3話でだいぶ変わりますよね。一気に人間味が増したというか。

佐野:「あっ照くんってこういう人だったんだな」みたいなことが台本読んで初めてわかるんですよね。「自分が書くものは、キャラクターに膜がかかった感じだとよく言われる」と吉田さんは言っていて、それがこういうことかと思いました。

――話が進むごとに登場人物一人一人の輪郭が浮き上がっていくんですよね。

佐野:結局、『17才の帝国』というドラマと視聴者の関係と、ウーアにおける閣僚たちと住民の関係が似た構造だなと思っていて。最初は雰囲気でしか捉えられないじゃないですか。自分がウーアの住人でも、真木くんのことは雰囲気でしかわからないけど、時間が経つにつれて、少しずつ見えてくる。

――映像も独特ですよね。既存のテレビドラマとも映画とも違う映像で。今回はどういうコンセプトで撮影されたのですか?

佐野:ふだんはNHKのドラマに関わっていないNHK映像デザイン部の服部竜馬さんにプロダクションデザインとして最初から参加してもらって、ウーアのUI等のガジェットや都市のブランディングについて一緒に考えてもらいました。画作りに関しては、服部さんや監督にお任せしましたが、フルフレームでセンサー感度の高いカメラで撮影しています。普段は人物や画の奥行きを考えて作っているんですが、今回はパンフォーカスを多用したSF的な画づくりが必要でした。色彩もグループごとのキーカラーを考えて、舞台設定や衣装はもちろんですが、撮影後のグレーディングも相当やっています。参考にした作品は、やっぱり韓国ドラマですね。

――Netflixで配信されている『スタートアップ:夢の扉』を思い出しました。

佐野:『スタートアップ』は勉強になりました。パキッとした画づくりは服部さんが意識したところで、それが独自の世界観に繋がり、良かったと思います。

訓覇:今回は吉田さんの脚本、発想に寄り添うことが最大の目的だったので、普段の実写感覚では無謀な設定やストーリーにストップをかけたくありませんでした。言葉による説明にもこだわらず、服部くんがデザインした画の力に賭けて博打を打ってみようと思いました。これまでのドラマとは全く違う作り方だったので、仕上がりが見えずに「ただ挑んでいる」という感覚が続いて、それが苦しくもあり楽しかったですね。たぶん、役者の皆さんも同じで「不思議だなぁ」と思いながら半信半疑で演じていたのだと思います。アニメを主戦場としている吉田さんの良さを実写ドラマで表現したいというこちらの方針は伝えていたのですが、リアルな芝居を求められているわけではないので「何ができるんだろう」と、みなさん模索していました。そのチャレンジ精神が、そのまま画面に現れているのが面白いのですよね。

――吉田さんの脚本は、実写ドラマの脚本と何が大きく違うのでしょうか?

佐野:先ほど言ったように「キャラクターが膜に包まれている」ということですね。今まで読んできた台本とはリアリティを置いているラインが違う感じがあって。作品世界を動かす上で、このキャラクターがここでこういう台詞を言った方がいいということで話が進んでいく感じが全体としてはあるのですが、『17才の帝国』はこの動かし方で良かったと思います。

訓覇:まさにそうで。吉田さんからいただく脚本に毎回ドキドキしちゃって、最初はどう読んでいいのか、わからなかったんですよね。僕はこれまでドラマをリアリズムで作ってきて、人の心の流れで台本を読んでいるので、今回は「え?」って意表をつかれることが多くて、読むのが凄く難しかった。でもこの「わからない部分」「飛び方」こそが一番面白いと思ったから、台本を形にするために、できるだけ客観的になろうと思って、別の人の企画ぐらいの気持ちで読んでいたら、どんどん面白くなってきて。最終的には自分の肌にすごく馴染んでいて、怖いですね。それくらい、これまでの作品とは「何か」が違うんですよ。

――視聴者としても戸惑う部分の多いドラマですが、戸惑いながらも気になってしまうという感情自体が、真木くんの動向を見守るウーアの住民の気持ちそのものなのかもしれないですね。

訓覇:そうですね。この企画は「17才の少年をAIが選んでしまったこと」が、一番おもしろい所じゃないですか。AIが選んだ子だから凄くミステリアスで特殊な才能を持った少年だろうという固定概念から僕自身が中々脱却できなかったのですが、第2話の初稿を読んだ時に、真木にピュアさを感じたんですよね。

――平に靴を買ってもらって、真木くんが喜ぶ姿がいいですよね。

訓覇:そこで何かを見つけたというか。第1話で真木をミステリアスに描き、第2話で幼い面を見せるという意表の付き方も好きで、全く違う方向から「17才」に着眼していけると感じました。

――「政治について学ぶオンラインサロンに参加していた」という言葉だけ抜き出すと、すごく尖った意識の高い子に思えるんですけど、真木もサチも、本当にふつうの子ですよね。最初は『DEATH NOTE』の夜神月や『コードギアス 反逆のルルーシュ』のルルーシュみたいな、2000年代に流行った早熟な天才少年が世界を変えるダークヒーローモノになっていくのかと思ったのですが、そっちに行かないのが、新鮮で。

佐野:私も初めは天才少年がバッサバッサと切ってくような感じになるのかと思っていたのですが、訓覇さんがおっしゃるように真木くんは普通の子で。吉田さんって、何かを抱えているふつうの子供たちがトラブルに巻き込まれたり、その状況から脱出するために頑張るという世界を書いてきた方だと、私は思っているんです。

――そう考えると、吉田さんの作家性が色濃く反映された作品なんですね。

佐野:「吉田さんが作る世界を最後まで見たい」という思いがあったので、吉田さんの頭の中にあるものを具現化するお手伝いをしたいという関わり方でした。「0から1を作る人」方への敬意を持ちながら、それをどう100にするお手伝いができるかと考えて、毎回ドラマを作っています。最後の結末も「絶対こうしたい」という強いイメージが吉田さんの中にあったので、そこに連れて行ってもらったという感じです。

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