『ちむどんどん』から“なんだかんだ”目が離せない理由 挑戦的な賢秀のキャラクター造形

『ちむどんどん』挑戦的な賢秀の人物造形

 “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』。第7週「ソーミンチャンプルーvsペペロンチーノ」では、比嘉暢子(黒島結菜)が上京して半年が過ぎ、はじめての雪に大はしゃぎするところで終わった。ピンチもあったがかいくぐり、暢子はアッラ・フォンターナで料理人としての才能を発揮しはじめる。

 一方、沖縄では良子(川口春奈)が石川博夫(山田裕貴)と結婚した。こちらもピンチをかいくぐってようやく幸せを掴んだ。一家の大黒柱・賢三(大森南朋)を亡くし貧しいながらも力を合わせたくましく生きていく比嘉家。なかで問題なのが長男の賢秀(竜星涼)である。彼のいろいろな意味でのルーズさが常に比嘉家の足を引っ張っている。第7週では、彼が作った借金返済のために良子が石川への想いを諦めて資産家のもとに嫁ぐことになりそうになった。さらに彼はその資産家に良子につきまとう男がいるので手切れ金が必要と嘘を言ってせしめ、それをまんまと持ち逃げした。

 賢秀という名前にまったく似ず、彼の行動はたびたび比嘉家に禍をもたらすが、なぜかあまり咎められない。それが観ていていらいら、もやもやする。

 これまでの朝ドラにもよく出てきたトラブルメーカーと賢秀の何が違うかといえば、彼を咎めるのが視聴者ばかりで、劇中ではまったく咎められないことである。たとえば『おちょやん』(NHK総合)のヒロイン千代(杉咲花)の父・テルヲ(トータス松本)を、千代は憎んで縁を切っていた。『カムカムエヴリバディ』のヒロイン安子(上白石萌音)の兄・算太(濱田岳)がラジオを盗んだときは父親(甲本雅裕)が厳しく叱った。ドラマのなかで必ず相対化する人物が存在していたが、『ちむどんどん』にはそういう人物がいない。本来、賢三がその役割を果たすところだが亡くなっているし、母・優子(仲間由紀恵)は驚くほど寛容で決して叱ることはない。沖縄は長男を大事にする慣習があるという声も聞くが、ドラマのなかでそこには触れないため、ほんとうにそうなのか、そしてそれを意図して描いているのかもわからない。

 賢秀に少し似ているのは『カムカムエヴリバディ』のひなた(川栄李奈)の弟・桃太郎(青木柚)である。彼は失恋してやけになりCDプレーヤーを盗む。そのときはひなたが怒り、母・るい(深津絵里)もとんでもないことだという表情をしていた。家庭にただならぬ気配は漂っていたとはいえ、登場人物(しかも主人公の身内)が泥棒する描写をわざわざ描く必要があるのか。

 筆者は気になって制作スタッフに質問した。桃太郎が窃盗した週の演出を担当した松岡一史氏は、「この世界は品行方正な人だけでできてないと思っていますし、コンプライアンス的にだめとも思いませんでした。第20週で吉右衛門(堀部圭亮)の対応が、吉右衛門らしく描かれていますので安心できると思います」と回答し、チーフプロデューサー・堀之内礼二郎氏は「殺人事件を扱ったドラマもありますので、劇中で犯罪を描くこと自体は問題ではないですが、罪を犯すキャラクターが誰であるかは大事と僕は考えています。倫理的に破綻した人物には共感しにくいものなので。ですから、ヒロインや相手役など、視聴者のみなさんに感情移入して頂きたい人物には、犯罪はもちろん、倫理的にどうだろうと感じられるような行為はできるだけさせないことは意識しています。とはいえ、物語の流れの上で必要だった算太や桃太郎の犯罪については、みなさん、許してやってくださいと心の中で頭を下げながら見守る気持ちです」と回答した(※)。

 “この世界は品行方正な人だけでできてないと思っています”という松岡氏の言葉は確かにそうである。そこで思い浮かんだのは、是枝裕和監督作『万引き家族』(2018年)やポン・ジュノ監督作『パラサイト 半地下の家族』(2019年)であった。これらの映画のように近年、主人公たちが生きるために法を犯している姿を描く作品に光が当たっている。犯罪者を描いた作品は昔からあっていまにはじまったわけではないが、大きな賞を獲得し映画館にたくさんの人が足を運びメジャーなものとして認識されている現象は興味深い。

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