トレンドは這い上がり系アニメ? 世の中を生き抜く勇気をくれる『盾の勇者の成り上がり』

 近年、召喚されたり転生したりして異世界に行った人たちが、与えられた異能や現代人ならではの知恵を使って無双を演じる物語が流行している。ままならない人生の厳しさをフィクションで紛らわしたいという願望が招いた人気だが、その風向きが少し変わってきたのだろうか。最近のアニメでは、主人公がどん底から這い上がる姿を見てその執念に感化され、つかみとった成功に歓喜する物語が増えている。

 佐藤真澄がGA文庫から刊行しているライトノベルを原作に、4月からTVアニメがスタートした『処刑少女の生きる道』。その冒頭で、主人公・ミツキに与えられる運命は残酷きわまりないものだった。

 見知らぬ異世界の王城へと召喚されたミツキだったが、能力が感じられないということで追い出され、路頭に迷っていたところをメノウという名の少女に助けられる。そこで自分にはちょっとした能力があると判明。メノウをパートナーにミツキの異世界でのサクセスストーリーが……始まらなかった。

 いったいミツキはどうなったのか。読者を喜ばせるような成り上がりの物語を楽しめるのかはアニメを観るなり、原作を読むなりして確かめてほしい。

 この『処刑少女の生きる道』で、異世界への転移・転生者が直面する運命の過酷さは極端な例として、他にも異世界に行ってもいきなり大成功とはならず、どん底へと落とされ、そこから這い上がるような作品が今、TVアニメの第2期まで作られる人気となっている。アネコユサギによるライトノベルを原作とした『盾の勇者の成り上がり』だ。

 異世界にあるメルロマルク国に召喚された大学生の岩谷尚文を待っていたのは、盾の勇者となって次元の亀裂から大量の魔物が湧きだしてくる「波」を退け、世界を滅亡の危機から救うという使命だった。同時に天木練、川澄樹、北村元康という若者たちも召喚されていて、天木は剣の勇者、川澄は弓の勇者、北村は槍の勇者として武器をふるい、魔物と戦うことになる。

 尚文にも勇者としての役割が求められたが、使える武器が身を守る盾では冒険に出て魔物を倒しながらレベルを上げ、「波」に備えることができない。おまけに召喚されて早々に奸計にはめられ、金品と信用を失ってしまう。絶望に沈む尚文だったが、どのような手を使ってでも生き抜こうと決意し、亜人の少女ラフタリアを奴隷として手に入れ、彼女に戦ってもらってパーティでレベルを上げていく。

 親切な人だと信じたら裏切られ、無実を訴えても聞き入れられない苦しみを味わう尚文に自分を重ねて、心苦しさにのたうちまわりたくなるところが本作にはある。現実で裏切りや憎しみを浴びていたら、どうしてフィクションの世界でも同じような経験をしなくてはいけないのかと、観るのを止めたくなるだろう。

 もっとも、日本だけでなく世界で人気となっている物語が、それだけで終わるはずがない。そう信じて観続けると、奴隷商人からもらった卵から、鳥形の魔物でありながら人間の幼女のような姿になるフィーロが現れ、当たりくじを引いたような喜びを味わえる。

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