ウクライナのゼレンスキー大統領、カンヌ映画祭でスピーチ 「新たなチャップリンが必要」

ゼレンスキー大統領、カンヌ映画祭でスピーチ

 5月17日(仏現地時間)より開催中の第75回カンヌ国際映画祭で、ウクライナのゼレンスキー大統領がリモートでスピーチを行った。

 ロシアがウクライナへの侵攻を続ける中、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、キーウからリモートで開会式に参加し、ライブストリーミングによるスピーチで映画監督やスタッフ、俳優らをはじめとする映画関係者に対し「映画は沈黙してはならない」と呼びかけた。

 ゼレンスキー大統領はスピーチの中で、第二次世界対戦時、アドルフ・ヒトラーによる独裁政治を風刺した1940年公開のチャールズ・チャップリンによる映画『独裁者』(『チャップリンの独裁者』)について触れ、「本物の独裁者を滅ぼすことはできませんでしたが、映画は黙っていませんでした」と、映画の役割、影響力について語った。さらに、「毎日、何百人もの人々が亡くなっています。映画はこのまま沈黙を貫くのでしょうか」「すべては私たちの団結にかかっています。いまこの瞬間、映画が沈黙していないことを証明するためには、新たなチャップリンが必要なのです」と映画関係者に声をあげるよう呼びかけ、「私たちは勝利を手にしなければなりません。そして、この終わりが常に自由の側にあることを証明するために、映画が必要なのです」と訴えかけた。

 ゼレンスキー大統領はまた、ベトナム戦争を舞台にしたフランシス・フォード・コッポラ監督の映画『地獄の黙示録』(1979年)から、「朝のナパームの臭いは別格だ」のセリフを引用し、ロシアによるウクライナへの侵攻と爆撃も「朝に始まった」と述べた。

 今回のカンヌ国際映画祭では、ロシアの公式代表団やロシア政府とつながりのある人物について受け入れないことが発表されたが、全面的にロシア人を拒否しているわけではなく、3月に発表した映画祭の声明では、「ウクライナへの攻撃と侵略に抗議するために、危険を冒しているすべてのロシアの人々の勇気に、敬意を表したいです。その中には、(ロシアの)現政権に対して戦うことをやめない、アーティストや映画関係者も含まれており、彼らを、ロシア政権による耐えられない行為、およびウクライナを攻撃している人たちと関連づけることはできません」と述べている。

 開会式の司会者ヴィルジニー・エフィラは、式典の開催を迎えるにあたり、「ウクライナの監督や、ロシア反体制派の映画製作者たちには居場所があり、私たちが耳を傾けなければならない声があるのです」と述べ、第11回カンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞した、第二次世界対戦による荒廃を描いた1957年公開のソビエト連邦時代の映画『鶴は翔んでゆく』(タイトル改変前『戦争と貞操』)についても言及した。

 また、映画祭のオープニング作品には、上田慎一郎監督が手がけた『カメラを止めるな!』(2018年)のフランス版リメイク作品『キャメラを止めるな!』(2022年)が選ばれた。

 ミシェル・アザナヴィシウス監督による『キャメラを止めるな!』は、フランス語タイトル『COUPEZ!』が決定される前は、『Z』というタイトルであった。しかし、ロシアでは現在、アルファベット「Z」が、ウクライナ侵攻を支持するシンボルとして広まっているため、ウクライナ研究所(Ukrainian Institute)より、アザナヴィシウス監督と映画祭に手紙が届いたという。状況を理解したアザナヴィシウス監督は「私の映画は、人々に喜びをもたらすために作られたものであり、いかなる場合においても(ロシアとウクライナとの)戦いに、直接的あるいは間接的に、関連づけられることを望んでいません」と、タイトルの変更を発表した声明で述べている。

参照

https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/cannes-volodymyr-zelensky-ukraine-war-statement-1235147324/
https://deadline.com/2022/05/volodymyr-zelensky-cannes-film-festival-opening-ceremony-address-1235026124/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/cannes-2022-festival-bars-russian-journalists-ukraine-war-1235143013/

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