『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』にみるトム・クルーズのサービス精神

 本作のオープニングは、ベラルーシのミンスクにある飛行場。生物・化学兵器(VX神経ガス)の密輸を止めようと奮闘するIMFチームの作戦が描かれる。飛行機から兵器を奪還しようとする場面では、実際にトム・クルーズ本人が命綱だけをつけて飛行機の外側にしがみつき、そのまま離陸するという、常軌を逸した撮影が行われている。まずは、この度肝を抜かれる冒頭シーンをぜひ見逃さないでほしい。仮に撮影の途中で、鳥が命綱にぶつかりでもすれば大事故につながりかねない危険なスタントは、映画冒頭がいきなりクライマックスになってしまう途方もない試みだ。しかもトム・クルーズは、当初1テイクで終わらせる予定だった離陸場面を8回も撮り直したそうであり、いったい彼は何を考えているのか理解に苦しむ。インタビューでは「撮影前夜は不安で眠れなかった」と説明しているが、なぜ8回もリテイクしたのか、全く説明になっていないのもトム・クルーズらしい。

 ここまで身体を張った撮影に挑む理由は何か、観客が唖然とするような場面は続く。モロッコでのバイクチェイスでは、ヘルメットをつけないまま猛スピードで走る場面を、またしてもトム・クルーズ本人が演じ切っている。もともとバイクの運転は得意だという話だが、そういう問題ではない。転倒すればどのような怪我になるか、あるいは命すら落としかねない危険な撮影だ。こうしたシーンはリスクが大きいものだが、危険を冒してでも映画に身体性を刻みつけようとする意志の強さは本物であり、コーナリングで地面へ膝がつきそうなほどにバイクを傾けるたび、見ているこちらがヒヤッとさせられる。彼はどの場面を撮る際にも常に本気なのだ。

 激しいアクションの合間に顔を出す、ユーモラスなやり取りもまた魅力だ。個人的にとても気に入っているのは、モロッコでのカーチェイス場面で、イーサンとベンジーが運転する車が、ルーサーとブラントの乗る車と偶然すれ違うくだり。階段を車で駆け降りるような無謀な運転をした直後に、同じIMFのメンバーとばったり顔を合わせた4人が、まるで「あっ、どうも」「ここにいたの?」とでも言いたげな、少し間の抜けたリアクションをするシーンで思わず笑ってしまう。こうした緩急がもたらすユーモアが、アクションシーン一辺倒になりすぎないバランスの良さにつながり、各キャラクターの魅力を増しているのが本作の魅力ではないだろうか。わけても、ファンの多いベンジーの演技は実にキュートで、作品に欠かせない笑いを提供している。トム・クルーズの超絶アクションとあわせて、キャラクターの魅力もぜひ楽しんでほしい作品だ。

■放送情報
土曜プレミアム 映画『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』
フジテレビ系にて、5月7日(土) 21:00~23:40放送 ※30分拡大
出演:トム・クルーズ(森川智之)、ジェレミー・レナー(花輪英司)、サイモン・ペッグ(根本泰彦)、レベッカ・ファーガソン(甲斐田裕子)、ヴィング・レイムス(手塚秀彰)、ショーン・ハリス(中尾隆聖)、アレック・ボールドウィン(田中正彦)
監督・脚本:クリストファー・マッカリー 
製作:トム・クルーズ、J・J・エイブラムス、ダナ・ゴールドバーグ、デヴィッド・エリソン、ドン・グレンジャー、ブライアン・バーク
(c)2022 Paramount Pictures.

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