『ムーンナイト』に重要な影響? 孤高のカルト作『レギオン』のスピリット

 ディズニープラスでMCUの最新TVシリーズ『ムーンナイト』が配信中だ。博物館で働くしがないショップ店員のスティーヴン(オスカー・アイザック)には、古代神コンスと契約した超人格マーク=ムーンナイトが隠れており……と、マーベル作品には珍しく、主人公のメンタルヘルスに焦点が当てられている。そして第4話、“衝撃”の展開に驚いた。これ、『レギオン』じゃないか!

 『レギオン』は2017年〜2019年にかけてFXで放送されたTVシリーズだ。幼い頃から統合失調症に苦しみ、精神病院への入退院を繰り返してきた主人公デヴィッド(ダン・スティーヴンス)には、強大なテレパス能力が秘められていた。やがてその力を巡るミュータント集団と政府機関の戦いに巻き込まれていく。デヴィッドの出自に関わるのは『X-MEN』シリーズでおなじみ、マーベルの超重要人物だ。

 いや、『レギオン』において文字で書かれたあらすじはほとんど意味をなさない。物語は現実と妄想、精神世界と多次元宇宙を縦横無尽に横断し、スーパーヒーローものの見せ場である超能力バトルはなんとダンスミュージカル仕立て。海外ドラマ冒頭でおなじみ「前回までは」というリキャップも、“previous”ではなく“apparetly”(どうやら)や“ostensibly”(表向きは)という単語が使われる始末だ。作っている側ですら要約不能の超絶展開が連続するのである。

 ショーランナーを務めるのは、コーエン兄弟の同名映画『FARGO/ファーゴ』をTVシリーズへと翻案したノア・ホーリー。コーエン兄弟の原作映画からユーモアとバイオレンスを継承し、より神話的な奥行きを与えて世界観を拡張していた。小説家というキャリアもあってか、時に観る者を煙に巻き、知的好奇心をくすぐる謎めいた語り口も魅力的だ。映像作家としてはデヴィッド・リンチの影響が色濃く、『FARGO/ファーゴ』シーズン3ではコーエン兄弟映画のランドマークとも言えるボウリング場にレイ・ワイズ(ローラ・パーマーの父親!)を出現させ、さながら“ブラックロッジ”化するなんて場面もあった。『レギオン』にはホーリーのほか、『アトランタ』『ステーション・イレブン』のヒロ・ムライ、近年『ストレンジャー・シングス 未知の世界』や『ベター・コール・ソウル』にも出張しているピクサーのアンドリュー・スタントンらがエピソード監督として参加している。

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