上白石萌音×深津絵里×川栄李奈『カムカム』が伝えた、“ひなたの道を歩くこと”の意味
『カムカムエヴリバディ』でさまざまな人の口から語られた「ひなたの道を歩く」というメッセージについても触れたい。
「ひなたの道を歩く」とは、安子編、るい編、ひなた編と重要なキーワードとして登場した「ジャズ」のナンバー「On The Sunny Side Of The Street」が元になっているのはご承知の通り。安子と稔、るいと錠一郎、ひなた……それぞれの想いがこの曲にリンクし、三世代の物語をつないでいく。
ただ、「ひなたの道を歩く」とは、成功する、輝かしい人生を送ることではないということも今一度思い出してほしい。
デビューを目前にトランペットが吹けなくなった錠一郎、時代劇俳優の夢をあきらめた五十嵐、台詞のある役に挑戦しようとオーディションを受け、不合格だった大部屋俳優の伴虚無蔵(松重豊)。
彼らは1度大きく倒れる。錠一郎は荒れてるいに別れを告げ、海の中に入り、五十嵐は傷心のまま東京の実家に帰った。虚無像はモモケンに「あんたじゃダメなんだ」と告げられ、役者としての自分の立ち位置を思い知る。
『カムカムエヴリバディ』で「ひなたの道を歩く」とじつは対(つい)にあったのが「暗闇でしか見えないものがある、暗闇でしか聞こえぬ歌がある」というメッセージではないだろうか。絶望し自分に未来はないのだと、どん底に落ちてからも人生は続く。闇の中でもがき苦しむ中で遠くにひとすじの光が見え、かすかな歌が聞こえてきたら、人は傷だらけの体を起こし、なんとか光の方向へと歩き出す。「ひなたの道を歩く」の本来の意味は「顔を上げて自分が信じる道を歩む」ことで、これを体現できるのは暗闇の深さを知った人だ。
錠一郎は長い時を経て再び音楽と向き合い、ピアノの勉強を始め、五十嵐はハリウッドに渡り、助手として仕事をしたのちにアクション監督として成功した。虚無蔵はかつて彼が出演した時代劇映画を稔と観ていた安子(=アニー)のプッシュでハリウッド映画へ進出を果たす。暗闇に落ちた3人だからこそ、そのひなたの道は輝いている。
冒頭に100年の物語が終わったーー、と書いた。確かに『カムカムエヴリバディ』はその幕を閉じたが、安子、るい、そしてひなたの物語はまだ続く。2025年、安子の跡を継ぐように日本とアメリカの映画産業を結ぶ仕事に就くひなたは、三世代のこれまでの人生をテキストに起こし、幼少時に英語に興味を持つきっかけとなったビリー(城田優)とラジオ英語講座の講師も務めている。
誰もが過去と未来とをつなぐ存在であること、日常の大切さと愛おしさ、自分が信じるひなたの道を歩くことの意味……『カムカムエヴリバディ』は約半年間に渡って、そんな優しいメッセージを私たちに贈り続けてくれた朝ドラだった。
大好きだったよ、ありがとう!
■配信情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
NHKオンデマンドにて配信中
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか
写真提供=NHK