いまだからこそ響く? 『フィフス・エレメント』が映し出していたリアリスティックな世界
さらに、イアン・ホルム、クリス・タッカー、ルーク・ペリーなど、大作ならではの強力な俳優陣が脇を固め、『レオン』の悪役で高い評価を集めたゲイリー・オールドマンが、またしてもサイコな役柄で出演しているのも、大きな見どころだ。
未来的な衣装を担当したのは、フランスの有名デザイナー、ジャン=ポール・ゴルチエだ。その提供する衣装は非常に奇抜なもので、クリス・タッカーら出演者は当惑したようだ。なかでもゲイリー・オールドマンが、頭の半分を剃って奇妙な透明のカプセル帽を被らされている姿は、観客によっては笑えてしまうことだろう。特典のインタビューで、「これが本来の自分だと思われてしまいかねない」と、弱っているオールドマンの姿は、その後の映画界で豊富なキャリアを積んだ彼を知る今だからこそ、より楽しく見られるはずである。
何といっても圧巻なのは、人類の救世主となるリー・ルーを演じたミラ・ジョヴォヴィッチである。彼女が主演した『バイオハザード』シリーズが大ヒットし、いまでこそ大スターとして君臨するジョヴォヴィッチだが、その大きな成功の一歩となったのが、本作だったのだ。それだけに、ここでチャンスを掴もうとする気迫のこもった演技は、本作に鮮烈な印象を与えている。
ここで同時に、プライベートな話題を思い出さざるを得ない。リュック・ベッソン監督は、本作をきっかけに前妻と別れ、17歳もの年齢差があるミラ・ジョヴォヴィッチと、3度目の結婚をすることになる。ジョヴォヴィッチにとっては、2度目の結婚である。映画監督が自作に出演させた若い俳優と交際したり結婚するというのは珍しい話ではないが、監督は現場で大きな力を持つだけに、年々このような関係が良い印象を持たれなくなってきているのは確かであろう。次々に女優と結婚しては別れていったベッソンは、いまなら、より厳しい目で見られるはずだ。
そこでまた複雑な気分にさせられるのは、当時の妻マイウェン・ル・ベスコが、異星人ディーヴァの役で、本作に出演しているという事実だ。つまり本作に、ベッソンの当時の妻と次の妻が同時に出てくるのである。結果的にそうなってしまっただけとはいえ、「それはさすがにどうなのか」と感じざるを得ないところだ。そういう意味で、ゴシップ的な目線でも観られるのが本作ともいえる。ちなみに、ベッソンとジョヴォヴィッチの夫婦生活は、その後2年ほどで終わりを告げることになる。
一方で、本作のテーマは平和的で共感を呼ぶものだ。地球は、生命を消滅させようとする“反生命体”(ジャン・レノが声を演じている)の出現に怯えることとなる。兵器で対抗しようとしても、その脅威は、攻撃した分だけ膨れ上がってしまう。これは、核兵器という強大な力が存在することで、戦争を起こす者を武力で倒すことができないというジレンマに似ている。
そんな破壊の力に対して、古来から信じられてきた「四大元素」の思想に加え、人間の持つ、ある“感情”「5番目の要素(フィフス・エレメント)」によって対抗するというのは、『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』同様に、真の平和や融和を考えるうえで、示唆的なものになっているのではないか。