『妻、小学生になる。』で思う、人が生きる意味 “貴恵がいた”温かな記憶が紡いだ風景

『妻、小学生になる。』で思う人が生きる意味

 再び母を失ったショックから立ち直れない麻衣のために、圭介は夕食を作る。貴恵が作ってくれた手料理のようにはいかない。それでも、圭介は作らずにはいられなかった。貴恵なら、きっとそうやって麻衣を元気づけたに違いないから。

 出来上がったのは真っ黒に焦げた唐揚げと、ケチャップを入れすぎたしょっぱいオムライス。そんな圭介の頼もしい姿も10年前には見られなかった。「ママがしてくれたことを、言ってくれたことを、無駄にしたくない。これからは、なくしたものじゃなくて、ママがくれたものを見つめて生きていかないか」。麻衣が閉じこもる部屋のドアに向かって、この10年を反省する圭介。

 そして麻衣もまた貴恵との日々に意味を見出そうと、意を決してドアを開ける。そして、囲んだふたりの食卓。話すのは貴恵のことだ。「おいしいもの、いっぱい作ってくれたね」「いっぱい励ましてくれて、おしゃれにしてくれて、笑わせてくれて……」。

 こんな風景が、10年前にできたらよかったのだ。愛する人の死は、身を裂かれるほど悲しいこと。もう二度と会えない、そう思うほどに胸が詰まって、何も喉を通らない。けれど、遺された家族は生きていかなければならない。そのためにも涙が流れるままに、やがて枯れて尽くして笑い話ができるくらいまで。何度も何度も故人との愛しい時間を反芻していく必要があるのだ。

 そして、麻衣の口から飛び出たのは「してもらうだけだったな……ママに何にもしてあげられなかったな」と、千嘉ともリンクして聞こえる言葉。もし、人が生きることに意味があるとするならば、こんな気持ちを誰かに思ってもらうためなのかもしれない。愛情や幸せを返しきれないほどもらった、と。その気持ちは、やがて新しい一歩を踏み出すエネルギーになる。貴恵の弟・友利(神木隆之介)が「姉ちゃんに読んでもらいたくて」と漫画を描き上げたように。

 「ナポリタン、大盛り、いや特盛で!」。馴染みの寺カフェで、友利がそう景気よく注文したのも、貴恵の「ご飯は元気のもとよ」が彼の心の中にあり続けているからこそ。よく食べて、よく生きる。泣きながらでも食べるということは、生きる覚悟を決めるということなのだから。

 貴恵が小学生になってでも帰ってきた意味は、しっかり伝わったようだ。だが、なぜか貴恵は成仏できない。憑依したあの公園で、どうしたものかと首をかしげる貴恵のもとにやってきたのは万理華だった。

 「会いたいのは、わがままじゃないよ」。その真っ直ぐな万理華の言葉に、「もう一度、家族に会いたい」と正直な気持ちに気付かされる貴恵。「こんなことになるなら、帰ってくるんじゃなかった」。そんな言葉を吐き捨てる別れ方ではなく、今度こそ安らかにお別れをするために。万理華と貴恵が再度奇跡を起こす。それは、大事な人を持つ全ての人の心を温かな記憶で繋ぐ時間になりそうだ。

■放送情報
金曜ドラマ『妻、小学生になる。』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
出演:堤真一、石田ゆり子、蒔田彩珠、森田望智、毎田暖乃、柳家喬太郎、飯塚悟志(東京03)、馬場徹、田中俊介、水谷果穂、杉野遥亮、小椋梨央、神木隆之介、吉田羊
原作:村田椰融『妻、小学生になる。』(芳文社『週刊漫画 TIMES』連載中)
脚本:大島里美
プロデュース: 中井芳彦、益田千愛
演出:坪井敏雄、山本剛義、大内舞子、加藤尚樹
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tsuma_sho_tbs/
公式Twitter:@tsumasho_TBS

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる