『映画ドラえもん』を初めて観た大人が感じたこと のび太やジャイアンは自分の心の中に

『映画ドラえもん』大人だからこそ感じること

 劇場を後にすると、『ドラえもん』好きの息子は、たった今観たばかりの内容について熱く語り出した。好きだからというだけでなく、原作と1985年版と本作の違いが明確で、それぞれの作品への感じ方が違ったからだろう。

 息子に促されるままに原作を読み、オリジナルを鑑賞すると確かに違う。2021年版はストーリーの流れだけでなく、しずかの戦争参加の動機づけも大きく変わっているし、全体的に低年齢向けな展開になっている。息子はまだ9歳なので、ビジュアル的にも派手でスピード感があり、友情や家族愛といったわかりやすいテーマの2021年版を気に入ったらしい(余談だが、序盤の白組によるジオラマ撮影はかなり気合が入っている)。

 筆者はオリジナルの方が好きだった。しずかの、約束を守ることが戦争に参加するモチベーションになっている部分に共感できるし、パピが一国の大統領としてのび太たちと心の距離を置こうとする姿勢にも胸をうたれたからだ。

 だが、そういった部分は、小学校高学年くらいから徐々に理解できるものなのかもしれない。同じ物語でも、少し設定を変化させることで、感じ方が変わる。これは、親子が一つのコンテンツについて語り合うのに最適だと思った。

 親子で語れるというだけでなく、もう一つ素晴らしいポイントがあった。『ドラえもん』は、『ドラえもん』の独自ストーリーを通してさまざまな分野を学ぶ学習漫画(小学館)が豊富だ。中学受験を控えている子どもの必読書とも言われているくらい内容が充実している。1990年代から一般的になった学習漫画は、持ち込みを許可している学校もあるため、「初めての漫画が『ドラえもん』の学習漫画」という子もいるくらい人気だ。

 『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』は、ハードSFではないにしろ、科学や政治などが出てくるので、気になったことを学習漫画でおさらいすることができる。『ドラえもん』はかねてからSTEM教育向けだと考えられているが、今はより直接的に学びにつなげることができると感じた。

 長々と書いたが、筆者は『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』を観たことで、『ドラえもん』に対する考えが変わった。今でも、独立心がありマッチョで問題解決能力の高い人物が好きなことに変わりはないが、自分の中にものび太たちがいると考えるなら、受け入れられる。

 筆者ほど『ドラえもん』にマイナスな気持ちを抱いている人は少ないだろうが、万が一「『ドラえもん』なんて……」と思っている人がいるなら、『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』を観てみてほしい。大人だからこそ感じることがあるかもしれない。

■公開情報
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』
全国公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:山口晋
脚本:佐藤大
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、香川照之、松岡茉優、朴ロ美、梶裕貴、諏訪部順一、内海崇(ミルクボーイ)、駒場孝(ミルクボーイ)
主題歌:Official髭男dism「Universe」
配給:東宝
(c)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2021
公式サイト:https://doraeiga.com/2021/

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