西島秀俊が世界で評価される演技力を発揮 劇場版『奥様は、取り扱い注意』で見せた笑顔

 西島は海外メディアのインタビューで、「家福が感じていることの全てを伝えられるわけではないため、彼の内なる感情が観客に伝わるだろうかといった不安はあった」と答えている(※)。しかし西島は、そのような不安を抱きながらも濱口が求める画に応え、家福という人物を作り上げた。西島が彼の胸中を丁寧に形作ったからこそ、観客は西島の無表情の中から、家福の妻を失った悲しみや生前明かされることのなかった妻の秘密への戸惑いを理解できる。この作品で西島は感情を抑え込んだ演技に努めたと思うのだが、その眼差しや口元、手や体の動きからは、家福自身も気づいていないような情感が滲み出しているように感じた。

劇場版『奥様は、取り扱い注意』(c)2020 映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会

 そして『奥様は、取り扱い注意』での演技。ほぼスタントなしで行われた西島と綾瀬のアクションシーンももちろん見どころだが、上記のような西島の芝居の組み立て方が活かされているのは、記憶を失った菜美と新生活を始める勇輝の表情だ。菜美が記憶を失っている限り、勇輝は菜美と別れずに済む。けれど目の前にいる菜美は、スリルを求める本来の彼女ではない。そんな菜美に接する西島の佇まいは、平穏な日々に安らいでいるようにも悲しんでいるようにも見える。勇輝の葛藤が、随所随所に表れているのだ。また物語の最後に見せる西島の笑顔にも注目してほしい。ネタバレは避けるが、相反する立場にいる菜美と勇輝が選んだ結末にふさわしい笑顔は強く印象に残っている。

 脚本家や監督、作品制作に関わる人々の意図を汲み、演じる役柄の背景、表情にも台詞にも表れない役柄の思いを理解し、それらを視聴者や観客に伝えるにはどうするのが最善か……西島は演技に臨む際、これらのことを常に考えているはずだ。主演男優賞を受賞した西島の演技力に着目して『奥様は、取り扱い注意』を観ると、また違った楽しみ方を得られるかもしれない。

参考

※ https://theplaylist.net/hidetoshi-nishijima-drive-my-car-interview-20220128/

■放送情報
劇場版『奥様は、取り扱い注意』
日本テレビ系にて、3月18日(金)21:00~22:54放送 
出演:綾瀬はるか、西島秀俊、鈴木浩介、岡田健史、前田敦子、鶴見辰吾、六平直政、佐野史郎、檀れい、小日向文世
監督:佐藤東弥
原案:金城一紀
脚本:まなべゆきこ
音楽:得田真裕
(c)2020 映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会

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