『鎌倉殿の13人』江口のりこの台詞回しに滲む亀の情念 頼朝を取り巻く女性陣にも要注目
『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第10回「根拠なき自信」。源頼朝(大泉洋)は平家の追討軍を見事に退けた。鎌倉では、政子(小池栄子)が「御台所(みだいどころ)」と呼ばれるようになり、人と「目通り」する機会が多くなる。政子はりく(宮沢りえ)の思いつきで雅な作法を身につけることになった。そして八重(新垣結衣)は侍女として頼朝のそばで働き始めるが、亀(江口のりこ)は八重に疑念を抱く。
第10回では、頼朝を取り巻く女性に対抗心を燃やす亀の怖さが目を引いた。亀は頼朝の妾であり、侍女頭だ。亀が初登場した第7回では、「人妻だったのか」と驚く頼朝をさほど気にする様子もなく「言ってなかった?」と返したり、頼朝の命を狙う長狭常伴(黒澤光司)と亀の夫・権三(竹内まなぶ)が大乱闘を繰り広げる中、「だったらついでにうちの人も討ち取って」と言ったり、コミカルな印象が強かった。しかし亀を演じる江口の演技の真骨頂は、正妻・政子や前妻・八重を前にしたときに発揮される。
第8回で頼朝は「早く跡継ぎを頼むぞ。わしの跡を継ぐ、立派な男子をな」と政子に語りかける。その様子を亀は間近で見ていた。頼朝と正妻のやりとりを聞かされ、江口は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。政子の正妻という立場がおもしろくない、といった具合に。その前日、頼朝は亀と密会していた。江口は可愛らしい笑顔を見せて頼朝を出迎える。江口の笑顔と頼朝を無邪気に抱きしめる姿が、頼朝と会えて嬉しいという亀の純粋な喜びを表現していた。そこで亀の喜びが存分に伝わったからこそ、政子を前にした江口の苦々しい表情が際立つ。それぞれ短いシーンではあるが、第8回で亀のライバル心の強さは伝わったはずだ。
そして今回。頼朝を取り巻く女性陣への亀の敵意はまず八重に向けられた。八重の立ち居振る舞いからそれなりの出自ではないかと怪しんでいた亀は、実衣(宮澤エマ)から八重の素性を聞き出す。そして亀は八重に、頼朝の部屋に酒肴の盆を運ぶよう指示し、八重の前で頼朝と寄り添う自身の姿を見せつけた。
八重の登場に頼朝は呆然としていたが、亀には余裕があった。頼朝に寄り添いながら「ここにお願い」と八重に顎で指示したとき、江口の口元は微かに微笑んでいた。それでいて、八重に指示する江口の口調はとても平然としているのだから怖い。盆を運ぶ八重の姿を江口はじっとりと目で追い続ける。そして「ありがとう、八重さん」と言った。勝ち誇ったような目つきと、八重の名前をわずかに強調した江口の台詞回しに、恐ろしさを感じる。