『平家物語』に色をつけるびわ役・悠木碧の声  『聲の形』結絃と共通する強さと優しさ

『平家物語』に色をつけるびわ役・悠木碧の声

自分の弱さを悟っている

 びわは、右目で未来(さき)を見る能力を持っているが、その能力があるからといって人を救うことができるわけではないと感じていた。

 第2話で徳子が高倉天皇に入内する際、「行くな!」と必死に叫んだ。それは、徳子が渦に飲まれて命を失う未来が見えたからだろう。その未来を変えるために自分ができることはなにもない。だからせめて、徳子が選ぶ人生を少しでも変えたいと思ったのだと思う。

 第4話で、重盛が亡くなる前に「びわには何もできぬ。見えていても、何もできぬ」とつぶやいていたのが心に残っている。その声から、悲しみや諦めが混ざり合ったような、びわの切ない感情がみえた。

びわと結絃の共通点

 びわの涙の芝居は、観ていていつも心を動かされる。第1話で重盛に「おとうみたいに殺せ」と涙ながらに訴えていた場面からは、びわの悲しみと覚悟が見えた。幼い子が「殺せ」と敵に言うまで追い込まれている様子に、心が痛くなった。

 父や重盛が亡くなり、泣き叫ぶ場面も忘れられない。喜怒哀楽の変化をあまり見せないびわだからこそ、泣いている様子は心に迫るものがある。どうにかして彼女の心を救うことはできないのか、という気持ちになるのだ。

 山田尚子監督が悠木碧をキャスティングした理由は、びわと『映画 聲の形』の結絃に共通点があったからではないかと思う。それは「どんな相手でも物怖じしない強さ」と「大事な人を護る優しさ」である。

 びわがそうであったように、結絃も同じく、自分よりも年上であり、幼少期に姉を虐めていた石田将也に対し、怯えることなく強く立ち向かっていった。

 そして2人とも「大事な人」がいる。びわの場合は、重盛と徳子だ。重盛に対しては、重盛が清盛に後白河法皇を討つのをやめるよう進言する際、重盛の身を案じ「一緒に行く」と告げた。徳子に対しては、徳子が高倉天皇に入内する際に「行くな!」と必死に叫んだ。

 結絃の場合は、姉の硝子だ。耳が聴こえない姉のため、これまで自分が前に立って守ってきたのだろう。石田が硝子の前に会おうとした際は必死に阻止したり、2人のやりとりを常に意識していたりした。硝子が自殺を図ったときは「オレの監督不行届きです」と述べていたのが印象的だ。

 また、びわと結絃の、初対面の相手にはツンツンした態度を取るが、心を開いていくと素の部分を見せるようになる性格も似ている。

 『平家物語』は、これから戦がどんどん激しくなるだろう。それに伴い、びわは多くの大事な人を失うかもしれない。びわは、物語にどう影響を与えていくのだろう。びわの声の変化にも注目しながら、作品を楽しみたい。

参照

https://digital.asahi.com/articles/ASPDP6WWPPD6UCVL002.html

■放送情報
『平家物語』
フジテレビ「+Ultra」ほかにて、毎週水曜24:55〜放送
※放送日時は都合により変更となる可能性あり
声の出演:悠木碧、櫻井孝宏、早見沙織、玄田哲章、千葉繁、井上喜久子、入野自由、小林由美子、岡本信彦、花江夏樹、村瀬歩、西山宏太朗、檜山修之、木村昴、宮崎遊、水瀬いのり、杉田智和、梶裕貴
原作:古川日出男訳 『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09 平家物語』河出書房新社刊
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクター原案:高野文子
音楽:牛尾憲輔
アニメーション制作:サイエンスSARU
キャラクターデザイン:小島崇史
美術監督:久保友孝(でほぎゃらりー)
動画監督:今井翔太郎
色彩設計:橋本賢
撮影監督:出水田和人
編集:廣瀬清志
音響監督:木村絵理子
音響効果:倉橋裕宗(Otonarium)
歴史監修:佐多芳彦
琵琶監修:後藤幸浩
(c)「平家物語」製作委員会
公式サイト: HEIKE-anime.asmik-ace.co.jp
公式Twitter:@heike_anime

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