『平家物語』に色をつけるびわ役・悠木碧の声  『聲の形』結絃と共通する強さと優しさ

 フジテレビ系で放送中のTVアニメ『平家物語』。物語の鍵を握る主人公・びわ役を悠木碧が演じている。彼女の声によって、物語に厚みが加わり、アニメならではの魅力が出ていると感じる。

 悠木碧といえば、『平家物語』と同じく監督を山田尚子、脚本を吉田玲子が務めた『映画 聲の形』で西宮結絃役を演じた。

 『平家物語』が放送される前のインタビューで、山田尚子監督が「最初からびわの声は悠木さんだと思っていました。(結絃のような役割を置くことについて)スタートから、脚本の吉田玲子さんと共通意識はありましたね」(※)と述べていたのが印象に残っている。

 本記事では、悠木碧が演じるびわの魅力を紹介しながら、山田尚子監督が悠木碧をキャスティングした理由を、びわと『映画 聲の形』の西宮結絃の共通点を挙げながら考察してみたい。

相手によって変わる声の表情

 びわの声の魅力のひとつに「相手によって変わる声の表情」が挙げられる。びわは『平家物語』の中でたくさんのキャラクターたちと関わるが、ほとんどの相手には感情をあまり見せず、無愛想な態度で接している。だが、びわが大事に想っている相手と話す際は声色を変えて話す。

 まずは、重盛だ。重盛と初めて対面したのは、重盛邸の庭である。最初は父親が平家の武士に殺されたことを恨んでおり、憎しみが込められた声で話していた。だが、会話を通して重盛の優しさに気づいたこと、そして重盛もびわと同じ「見える」目を持っていることから、徐々に心を開いていく。

 重盛と話している時の声は、まるで父親に話しているかのような安心感がある。重盛のことを心から信頼しているため、自分の感情や考えを積極的に伝えていくのだった。

 次に、徳子だ。徳子と会うたびに、「徳子!」と毎回嬉しそうな反応を見せる。初対面の相手と接する際は警戒しているびわだが、徳子のことは、最初から彼女の佇まいや雰囲気に憧れを抱いていたようであった。会話を聞いていると、彼女のことが心から好きなのだと伝わってくる。

 最後に、安徳天皇(徳子の息子)と福原で拾った猫である。日頃は自分よりも年上の人間に囲まれている環境だからこそ、自分よりも小さな存在である安徳天皇と猫が愛おしいのだろう。「かわいいのう」と大事に可愛がっていた様子から、新しいびわの一面が見えた。

物怖じしない強さ

 びわは、年上に物怖じせずに自分の意見をはっきりと伝える。第1話で、重盛と初めて会った際の芝居が印象的だ。「お前たちは、じき滅びる」と真に迫った様子だった。

 父親を殺した平家に向かって「滅びる」と伝えることは、自分も殺されるかもしれないリスクを有している。だが、怯えるのではなく堂々と平家に立ち向かった。大事な存在を奪われた恨みや憎しみが覚悟につながったのかもしれない。

 また第2話で、たくさんの灯籠を屋敷に立てている重盛に、清盛が「そんなに闇が怖いか」と聞いたことに対し「お前みたいにギラギラしたやつに、闇の恐ろしさがわかるものか」とはっきりと返答したのも威勢がよかった。相手がどんな立場の人間だとしても、自分の意志や考えをしっかりと伝える様子はかっこいい。

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