『カムカム』虚無蔵は松重豊本人とも重なる 『孤独のグルメ』井之頭五郎との類似点も

 本人はいたって真面目にやっているだけなのに、なぜか面白くなってしまうという点で五郎と虚無蔵は似ている。稽古を頼んだ文四郎に廊下で突然斬りつけてきたり、六文銭を束にしたような差し銭を給料と言って渡されても、普通は意味不明だが虚無蔵がやると不思議とさまになる。けっこう無茶な設定なのに「ああ、そういう人なんだな」と感じさせる存在感、真剣さと滑稽さの落差が観る側のツボをくすぐる。バイプレイヤーという立ち位置でありながら、要所でフックのある面白さを演出する一方で、怖い役はめちゃめちゃ怖くなり、父親や上司を演じると年齢相応の渋さと深みを醸し出す。引く手あまたなのも納得である。

 そんな松重の役者としてのベースは舞台にある。そのことは2月6日に放送された『ボクらの時代』(フジテレビ系)でも確認できた。角野卓造、小日向文世との鼎談で松重が口にしたのは、舞台出身者の矜持だった。また、同番組では下の世代への継承も話題になった。バイプレイヤー界隈でも重鎮となりつつある松重は、昨今の舞台や映像作品を取り巻く状況への危機感をあらわにした。

 舞台で培われたセンスを発揮して縦横無尽に活躍する松重。映像文化を支えてきた松重の姿は『カムカムエヴリバディ』の虚無蔵と重なる。虚無蔵はひなたに「時代劇を救ってほしい」と頼み、自らは因縁の『妖術七変化』再演に向けて腕を磨く。自身を育てた時代劇への忠義を貫き、ひなたや文四郎に時代劇の魂を継承する。そこにあるのは、汲めども尽きぬ時代劇そして映像文化への愛情である。松重演じる虚無蔵を通じて、私たちは作品に関わる人たちが持つ思いの深さを知るのだろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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