安藤政信、今再びのブレイクへ 『金魚妻』『ゴシップ』でも光る俳優としての円熟味

 『ゴシップ#彼女が知りたい本当の○○』(フジテレビ系)では黒木華演じる主人公の瀬古凛々子をニュースサイト「カンフルNEWS」へと送りこむ出版社の執行役員・仁和正樹を演じ、先日配信がスタートしたNetflixドラマ『金魚妻』では篠原涼子演じる主人公・平賀さくらを苦しめるモラハラ・DV夫に。90年代に若手俳優のひとりとして頭角を表し、一時は引退説や“南極に行っている説”まで流れた安藤政信は、近年ミステリアスな役柄や悪役など、性格俳優としての地位を築こうとしている。

Netflixシリーズ『金魚妻』

 安藤の名前を聞けば、多くの人がデビュー作の『キッズ・リターン』での鮮烈な演技を思い出すことだろう。ひょんななりゆきからボクシングジムに通い始め、ボクサーとしての才能を見出していく青年の挫折を演じきり、日本アカデミー賞新人賞やキネマ旬報ベスト・テンの新人男優賞などその年の各映画賞の新人部門を席巻。そこから始まる20代のキャリアは“映画俳優”としてあまりにも充実したものであり、タッグを組んだ監督の名前を上げていくだけでもそれがよくわかる。

 北野武から始まり、相米慎二に矢口史靖、降旗康男、本広克行、深作欣二、SABU。さらに当時斬新な映像クリエイターとして注目されていた下山天や中野裕之の作品では主演を張り、後に大きな飛躍を果たす李相日の作品も。とりわけこの上ないインパクトで驚嘆したのは深作監督の『バトル・ロワイアル』であり、安藤が演じた転校生の桐山和雄は劇中で一言も台詞を発しない殺人マシーン。同時期の他の作品、例えばヤクザの金を勢いで持ち逃げしてしまう矢口監督の『アドレナリンドライブ』や、アニメオタクでどこか頼りなさげな銀行強盗一味のひとりを演じた本広監督の『スペーストラベラーズ』で見せた飄々とした雰囲気を一気に封じ込めるのである。

 兼ねてから深作作品のファンで、『キッズ・リターン』の恩師でもある北野と共演したいという思いから中学生の役に果敢に挑戦(当時24〜25歳ぐらいであった)したことを当時のインタビューで明かしていた安藤。初めは後々に山本太郎が演じることになる川田章吾役として話が進みながら、脚本を読んで即座に違うと感じ、自ら桐山役を申し出たという。さらに当初用意されていた桐山の最後の台詞をそれまで演じてきたキャラクターと合わないことから自らの意思でカット。「俺が自分で、『カットしたい』といったんです。監督に『僕、セリフ言わないですから』って」(引用:『バトル・ロワイアル・インサイダー』296ページ)と、デビューから4年、まだ8本目の映画出演とは思えない大物ぶり。それだけ真摯に役柄に向き合い、作品への影響をも視野に入れるストイックさを持ち合わせているということだ。

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