『ボバ・フェット』が引き継いだ、ジョージ・ルーカスの“新たな映画を目指す”という意志

『ボバ・フェット』が引き継ぐルーカスの意志

 ディズニーがルーカスフィルムを買収し、『スター・ウォーズ』の権利を手に入れてから、およそ10年。その間、続3部作を含め様々な『スター・ウォーズ』シリーズが世に送り出されてきた。だが観客の反応は、歓喜や称賛ばかりではない。伝説的な作品によっては、その出来に懐疑的な目を向けているファンも少なくないのである。だが、そんな近年の『スター・ウォーズ』シリーズの作品群の中で、数多くのファンを納得させ支持を集めている作品がある。それが、ドラマシリーズ『マンダロリアン』である。

 ディズニープラスで、これまで2シーズンにわたり配信されている『マンダロリアン』は、『スター・ウォーズ』シリーズの人気キャラクター、バウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)の“ボバ・フェット”を思い起こさせるキャラクター“マンダロリアン”と、視聴者から「ベビー・ヨーダ」と呼ばれ親しまれた“ザ・チャイルド”との、マカロニ・ウェスタン(イタリア製西部劇)や日本の劇画作品『子連れ狼』を想起させる、宇宙をさすらう旅が描かれた。そのエピソードのなかでサプライズとして登場したのが、あのボバ・フェットだったのである。

 そして、『マンダロリアン』の最後のエピソードで、ついにボバ・フェットを主役としたシリーズの配信が予告された。もともと、「ボバ・フェットのスピンオフ作品が製作される」という話は、『マンダロリアン』配信のはるか前からファンの間では噂されていた。だから、その企画を長年期待していたファンとしては、彼の物語を楽しむことは念願だったわけだ。

ボバ・フェット/The Book of Boba Fett

 TV番組『スター・ウォーズ ホリデー・スペシャル』(1978年)で初登場し、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』で映画本編に登場することになったボバ・フェットは、シリーズの一側面であるマカロニ・ウェスタンのテイストを引き受け、常にヘルメットで顔を隠し、装甲のあちこちに仕込まれたガジェットで戦う寡黙な曲者(くせもの)キャラクターとして、当時から高い人気を集めていた。

 そんな人気を受け、ストーリーの時系列としては前の時代にあたる『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002年)でも、子ども時代の姿で登場。同様の装備を持つ父親ジャンゴ・フェットとともに、やはり『子連れ狼』のようなスタイルで、ユアン・マクレガー演じるジェダイマスター、オビ=ワン・ケノービを何度も苦しめる活躍を見せた。そのときにジャンゴ・フェットを演じていたテムエラ・モリソンが、本作『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』で、息子ボバをも演じているのだ。これは、ボバがジャンゴのクローンであるという設定に従った趣向である。

 製作チームは、ジョン・ファヴローやデイヴ・フィローニ、ロバート・ロドリゲス、ブライス・ダラス・ハワード、美術設計のダグ・チャン、そして作曲家ルドウィグ・ゴランソンなど、『マンダロリアン』と共通するスタッフの多い座組となっている。じつは本シリーズ『ボバ・フェット』は、『マンダロリアン』から派生したスピンオフとして位置付けられているのだ。

ボバ・フェット/The Book of Boba Fett

 主演のテムエラ・モリソンは、すでに60代である。顔をそれほど出さなくていいキャラクターとはいえ、これからアクション満載のシリーズの主役を演じていくのは、少々説得力に欠けるかもしれない。その意味では、ボバ・フェットとテムエラ・モリソンに敬意を払いながらも、まだ40代のペドロ・パスカルが演じるマンダロリアンの方を主軸にしたシリーズにしていくというのが、ディズニーの現実的な判断だったのだろうと想像できる。

 「原点に立ち返った新しい『スター・ウォーズ』 『マンダロリアン』が高評価を得た理由を解説」でも書いた通り、『マンダロリアン』が画期的だったのは、その製作手法自体にもあった。旧3部作のようなミニチュアを使った視覚効果、新3部作のような全面的なCGとの合成とも異なり、ジョン・ファヴロー監督は、スタジオ内をLEDディスプレイで囲み、そのなかで俳優に演技させ、カメラを動かしている。これによって、ジョージ・ルーカスが確立した新3部作でのグリーンバック撮影よりも、自然な演技や映像表現が可能になったといる。

 かつてジョージ・ルーカスは、自身が手がけてきた『スター・ウォーズ』シリーズで、絶えず新しい映像技術を試し、映画製作に革命的な進歩をもたらしてきた。その意味で『マンダロリアン』シリーズ、そしてその技術を継続する『ボバ・フェット』は、旧3部作のレトロなテイストを再現しようとした『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)などの作品よりも、ジョージ・ルーカスの“新たな映画を目指す”という意志を引き継いでいるといえるのではないだろうか。

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