小栗旬、『鎌倉殿の13人』は“生活の一部”に 「主役をやらせてもらっている醍醐味」
三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が放送中だ。毎週の放送ごとにTwitterでトレンド入りを果たすなど、視聴者を大いに沸かせている。主人公・北条義時を演じるのは、小栗旬。第1回からここまで、“ちょっとかわいそうな義時”を自然体で演じている。三谷脚本に見事に対応し、“笑い”と“リアル”のさじ加減を絶妙な塩梅で見せてくれている。撮影の現場では一体何が起きているのか。本作の放送前に話を聞いた。(編集部)
「まさか大河でこんなセリフを言うとは」
ーー三谷幸喜さんの脚本を読んだ印象を教えてください。
小栗旬(以下、小栗):脚本をいただいて読んだ時に、なるほどこういう切り口で始めていくんだと感じました。鎌倉時代が好きな方はもちろん、あまりこの時代を知らない方たちが、この面白い着眼点による新しい鎌倉時代の物語をどのように感じていくのかを聞いてみたいです。序盤の物語は、北条家のホームドラマのようになっています。大河ドラマのスタートは、家族の物語から始まるところがあると思いますが、そこは三谷さんのユーモアもあって、楽しんで観てもらえると感じました。
ーー印象的だったセリフはありますか?
小栗:大河ドラマでは、「ちょっと」って絶対に言っちゃいけないと思って参加するんですよね。だけど、三谷さんの台本には「ちょっと」っていうのが出てくるので、「言っていいんだ!」って感じでやっているかもしれないです(笑)。自分も「ちょっと待ってください」と言うことはあるんですけど、大泉さんには「ちょ、ちょっといいかな」っていうセリフがあって、まさか大河でこんなセリフを言うとは思わなかったなって。アドリブになった場合、その時代の言葉を上手く挟めないことがあったりするんですけど、今回はそういった部分の縛りが薄い分、面白くできている部分もあるんじゃないかと思っています。
ーー源頼朝を演じる大泉洋さんとは共演シーンも多いかと思います。
小栗:面白いシーンが意外とあったりするんですよね。その辺の感覚について、自分は大泉さんに「これで面白くなってますか?」って確認して、「面白かったよ」って言われたら正しいことをやったんだなと思ったりしています。頼朝と義時の関係性では、温泉に2人で浸かって彼の立つつもりだという思いを聞くシーンは印象に残っていますね。
ーー演じる北条義時はどのような人物だと捉えていますか?
小栗:これが難しいんですよね。あくまで僕たちが作っている作品の話ですけど、元々は自分の置かれている立場に不満がなかった青年だった。戦にもそんなに興味がなく、米蔵で米の勘定をしているのが楽しいみたいな男の子が、兄の宗時(片岡愛之助)を筆頭に平家に虐げられ、そこから頼朝の横で政治の在り方を見ていくことになる。結果、清濁併せ呑んだものすごく計算高い人になっていく部分があって、そこは歴史劇としては面白いところです。演じている自分としてはあんなにまっすぐだった彼が、いろんなことを考えながら家族を守るためにはこうせざるを得ないと、徐々に手を染めていくのが悲しい感じもあります。年齢は曖昧にしているんですが、だいたい10代から今は25歳くらいまでを演じています。日々、役のことを考えているからか、自分が義時なのか、義時が自分なのかよく分からなくなってくるような経験をさせていただいているのは、大河ドラマで主役をやらせてもらっている醍醐味だなと思っています。ほぼ毎日撮影をしているので不思議な感覚です。まだまだゴールも見えないですし、それでいて半年も撮影が過ぎているけれど、仕事をしにいっているというよりかは、生活の一部のようになってきていて。こういうことをライフワークというのかなという感覚です。
ーー10代から25歳までを演じているということですが、役作りはどのように行っているのですか?
小栗:変に若々しくしようということは現場ではなく、最後の年齢にたどり着くまでの段階を作っていく上では溌剌と元気みたいなところからのスタートかなと。20歳から25歳ぐらいまでが義時の大きな変化が生まれるところなので、この辺の機微が難しいかなと思っていますね。
ーー義時は後に権力争いに巻き込まれ、次第に冷酷な人物へと変貌していきます。後半の展開に向けて、演技で意識していることはありますか?
小栗:スタートの時点で、チーフ演出の吉田(照幸)さんを含めて、監督陣と今回は先を見越してやっていくのはやめましょうと話をしました。義時たちもどうなっていくか分からない世界にいる。最初の頃に監督が言っていたジャズのセッションじゃないけれども、そういった突発的に生まれていくものを大事に今回はやってみないかと話をしていたので、僕も計算はあまりせずにいるんです。今、撮影している辺りでも、義時はひたすら振り回し続けられてはいるんですよ。その中で、何が自分にできるのかのチョイスを始まりの頃からずっとしているんですけど、義時自身も気づいてはいないんだけど、回を重ねるごとにその選択肢の幅がどんどん増えていっているのは事実で。そこが面白い形になっていると思っていますし、一つひとつにしっかりリアクションを取っていこうと意識してやっていますね。
ーー物語の中で描かれる権力争いについてはどのように受け止めていますか?
小栗:いつの時代にもありますし、どうしても避けられないことなのかなとは思います。結局、そういう歴史の上に自分たちがいるということでもあるので、一概に醜いものとは言えないなと思いますね。権力争いの裏側が描かれることで、そこにあった人間ドラマが見えてくるのかなと。演じている義時は、決して権力が欲しかったわけではなく、守らなければいけない人たちのために強いられた決断、果ては権力争いに参加してしまっていたりする。今の時代の権力争いでも、この人の本来の心根はどうなっているのかが見えてくると受け取り方が違ってきたりするので、どちらとも言えないですし、人間だからどうしても避けられない道なのかなと思ってしまいますね。