『カムカム』ひなた編は錠一郎から“テーマ”を継ぐ? 世代を超えて描かれる親子像

 安子編も振り返れば、安子(上白石萌音)と稔(松村北斗)が結ばれてからるい編に移行するまでが結構早い印象だった『カムカムエヴリディ』(NHK総合)。るい編も気が付けばあっと言う間に、娘・ひなたが誕生。第14週より10歳のひなた(新津ちせ)が登場している。

 世代交代がされてすぐの頃、やはり強調されるのはそれまで主人公として物語を牽引してきた彼女たちの母親像である。安子がお母さんになったのは1944年の戦禍。防空壕でるいを抱きしめながら必死に耐えていた様子も、戦争によってるい以外の大切な家族をも失ってしまった彼女の喪失が、力強く描かれていた。そのため、安子にとって残されたるいが、よりかけがえのない宝物であることが強調されるのであった。しかし、その“宝物”を一度でも自分の過失で傷つけてしまった安子。その日を境に、それまで商いでも配達でも、どこに行くにも行動をともにしていたるいを置いて、自分だけで頑張ろうとしはじめる。親が子を大切に思う気持ちが、かえって子に不信感を与えてしまうという悲劇的な結末で安子編は幕を閉じた。

 さて、大きくなったるい(深津絵里)は錠一郎(オダギリジョー)と結ばれるも、妊娠が発覚した時からどこか不安だった。それは、ずっと母親に捨てられ、母を知らない自分自身もいつか母親になるのか、なれるのだろうかと彼女が一抹に抱えてきた気持ちの表れである。なにせ、彼女が岡山から大阪に移住したことも、そこでの生活の節々にも、あらゆる場面で母・安子に対する拭いきれない苦い思い出がキーとなって描かれてきたのだから。それでも、錠一郎との交流を通して、その母娘の関係性を象徴する「Sunny On The Sunny Side Of The Street」を、彼との愛の曲に昇華したり、過去を以前より前向きに思い返せたりと前進した。

 こんなふうに2世代ヒロイン、安子からるいに受け継がれた愛が「ジャズ」というるい編のテーマとしても描かれてきたが、興味深いのは、ひなた編のテーマになるであろう「時代劇」が決してるいからひなた(新津ちせ)に受け継がれたものではなく、錠一郎からのものであることだ。

 ひなたの物語は彼女が小学4年生の頃から始まる。お互いに両親というものを知らない錠一郎とるいが、あれだけ親になることを不安に思っていたにもかかわらず、すっかり2人とも父親・母親としての役目が板についていた。錠一郎は近所や世間からすれば、夫としてはあまりにも頼りない。70年代に入ったこともあり、完全にヒッピーファッションを身に纏った“オダギリジョー化”した錠一郎はずっと家にいて何もしない。店番をさせても出来上がった回転焼きがあるにもかかわらず、客を10人ほど返させてしまうポンコツっぷり。できることといえば、近所の少年たちが河原でやる野球を見守ることだった。しかし、この“見守ること”が実は子供にとっては一番大切だし、意外とやり続けることが難しいことなのではないだろうか。

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