幽霊譚にのせてトラウマを描く『ポスト・モーテム』 監督の考えるホラー映画とその未来

世界のホラーと『ポスト・モーテム』の関係

――アジアのホラー映画についてはどのような印象をお持ちですか?

ベルゲンディ:非常に残念なことに、当時アジアのホラー映画を観る機会がありませんでした。しかし、振り返ってみるとアジアホラーもまた、映画製作におけるサブジャンルに非常に重要な影響を与えたと思います。

――日本のホラー映画、例えば『リング』や『呪怨』などをご覧になったことは?

ベルゲンディ:はい、あります。興味深いことに、それらのハリウッドのリメイク版作品はなぜかヨーロッパで上映されやすいんですよね。ただ、『ポスト・モーテム』の製作にあたってかなりリサーチをして、その過程で日本のホラー映画も観ました。残念ですが、映画館ではアジア映画が上映されていないため、DVDや配信サービスで探す必要がありました。やはりヨーロッパではまだまだ配給が限られているんです。個人的な意見としては、アジアのホラー映画はより深く人々の日常生活や社会の構造の一部に根ざした作品が多い印象です。面白いことに、『ポスト・モーテム』は地中海地域、ポルトガル、スペイン、イタリアといった南ヨーロッパでの興行が非常に成功しており、それらの諸国はアジアに似ている部分があると思うんです。怖い幽霊の話ではあるけど、そういった恐怖要素は民間伝承の一部でもある。しかしハンガリーではアジアや地中海諸国のように、メインストリームとしては浸透しなかった。この受け入れプロセスは、まだハンガリーで始まったばかりです。なので、私の目的は海外の観客に届けられる映画を作ることでもありました。そのため、製作初日から国内だけでなく、海外の配給を視野にいれていたんです。普段の計画ならフェスティバルに伴った上映のみで進めていましたが、やはり可能な限りたくさんの国に届けたかった。私はこれまで『Trezor(原題)』と『The Exam(英題)』という二つの歴史的な映画を作っていますが、この作品は自国でも、海外的にも成功を収めました。その結果もあって、次のプロジェクトは鎖に縛られた何かを解放させるような、これまでされてこなかったことに挑戦したくなったのです。そしてそれが、ハンガリーにおけるホラー映画であることに気づいた。この映画を作ることは、私にとっての長年の夢でした。

――そのなかで、遺体写真家を取り上げた理由は何ですか?

ベルゲンディ:物語を考える段階で、人々が遺体写真撮影というアイデアに興味を持っていることに気づきました。それが実際に、第一次世界大戦後に行われていたことだと知ると、余計にね。そういった経緯でまず、本作にこの要素をいれることにしました。そして私自身、あらゆるホラー要素の中で一番に怖いのが「幽霊」なんです。そこで遺体写真撮影のアイデアと幽霊物語を組み合わせ、舞台をハンガリーの歴史における最もトラウマ的な時代に選びました。この3つが本作のベースとなる要素です。

――ある意味、幽霊の物語と土地に根付いたトラウマという組み合わせはジャパニーズホラーにも通じる要素かと思います。

ベルゲンディ:確かに、我々もこのテーマが日本のカルチャーと親和性が高いことに気づいていました。だからこそ、日本で劇場公開されることが嬉しいんです。本作は日本の観客にも刺さる部分があると感じているから。ネタバレは避けますが、本作では二人の主要キャラクターが幽霊を成仏させるために何かをしなければならない。この要素も従来の幽霊を描いた作品に加えたひねりですね。

右からクリエイティブ・プロデューサーのガボール・ヘレブラント、監督のピーター・ベルゲンディ

――これまでホラー映画へのアクセスがかなり限られていたハンガリーで本作を製作されたわけですが、最も挑戦的だったことは何でしょう。

ベルゲンディ:全てです(笑)。やはりおっしゃる通り、ハンガリーはホラー映画を製作してきた経験が少ないので。だから製作チームと一緒に、私自身もどのようにして特殊マスクを作るのか、スタントをどうするのか、特殊効果の作り方を考え出す必要がありました。特殊効果に関しては、あらゆるものを実験しましたし。なので、我々がしたことはハンガリーのフィルムメイカーたちに対して新たなフォーマット作りをしたようなものです。

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