『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の立役者? アヴィ・アラッドとシリーズの歴史

『アメイジング・スパイダーマン』シリーズの打ち切り

 アラッドがマーベル・スタジオを去ってから、MCUの運営はファイギに託され、アラッドとプロデューサーのマット・トルマックは、『スパイダーマン』の新たなリブート版である『アメイジング・スパイダーマン』シリーズの製作に着手すると同時に、『シニスター・シックス』(『スパイダーマン』の宿敵による悪の集団)の映画化も企画を進めていた。

 アンドリュー・ガーフィールド主演、マーク・ウェブ監督による『アメイジング・スパイダーマン』シリーズは、2012年に第1作目の『アメイジング・スパイダーマン』、2014年に続編となる『アメイジング・スパイダーマン2』を公開し、続く第3作目となる『アメイジング・スパイダーマン3』の制作も、正式に発表されていた。

 しかし、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズも、ライミ版『スパイダーマン』同様打ち切りとなり、予定されていた『アメイジング・スパイダーマン3』と『シニスター・シックス』の映画化は、実現されずに終わってしまう。

 『アメイジング・スパイダーマン』シリーズが打ち切りとなった理由については、世界興行収入は好調であったものの、アメリカ国内興行収入が、前作のライミ版『スパイダーマン』シリーズには及ばなかったこと、俳優の年齢とキャラクター設定の相違、ソニー・ピクチャーズがマーベル・スタジオと協業して新たな『スパイダーマン』シリーズ(MCU版)の制作を計画していたことなどとされている。※3

 またもシリーズ続編企画が実現されずに終わってしまった『スパイダーマン』シリーズだが、2015年、大きな動きが起きる。スパイダーマンの映画化権をもつソニー・ピクチャーズと、キャラクター版権をもつマーベル・スタジオが業務連携し、『スパイダーマン』のMCU参戦が可能となった。そして、2016年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、スパイダーマンはMCUの仲間入りを果たし、トム・ホランド演じるMUC版スパイダーマンの物語がスタートした。

スパイダーマンのMCU離脱の危機も

 その後、ジョン・ワッツ監督によるMCU版スパイダーマンの単独シリーズ『スパイダーマン:ホームカミング』が2017年に公開され、アラッドは今シリーズでも、製作者として参加している。こうして、MCU版『スパイダーマン』シリーズ第2作目となる『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)、今作の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2022年)と続くわけだが、またしても、今シリーズ3作目となる『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の実現が叶わなかったかもしれないトラブルが起こっていた。

 2019年8月、マーベル・スタジオの親会社であるディズニーとソニー・ピクチャーズがスパイダーマン映画に関する契約更新について話し合った際、契約条件について揉めたことで、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』を以てスパイダーマンはMCUから離脱する危機となった。

 結果的にスパイダーマンはMCUに残留というかたちとなったが、当時ホランドは、ディズニーCEOのボブ・アイガーに、スパイダーマン復帰について懇願電話をかけたほど、MCUスパイダーマンへの想いが強いというエピソードも。※4

 このように『スパイダーマン』シリーズにはこれまで、企画の中止やトラブルなど、シリーズごとの歴史があり、続編が叶わなかったことで実現できなかった部分も多く残っていた。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が成し得た奇跡

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(c)2021 CTMG. (c)& TM 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

 予告編で既に大きな話題となっていたが、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では、マルチバースの扉が開き、サム・ライミ版シリーズのグリーンゴブリンや、ドクター・オクトパス、サンドマン、マーク・ウェブ版シリーズのエレクトロやリザードなど、歴代ヴィランが異なるユニバースから集結する。ひとつの映画のなかで、悪役としての単なるヴィランではなく、各ヴィラン(キャラクター)それぞれのもつ背景やストーリーが描かれており、ヴィランを受け入れる(助ける)姿が、スパイダーマンらしい優しさを伝えるストーリーとなっている。

 そして、歴代ヴィランだけでなく、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』最大のサプライズともいえるのが、トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールドら歴代スパイダーマンが復活し、3人が同じユニバースで、スパイダーマン/ピーターパーカーとして共演を果たしたことである。

 ヴィランの再集結により、当時アラッドが実現できなかった『シニスター・シックス』の実現をはじめ、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では、各シリーズで成し遂げられなかった、監督をはじめとする製作者たちの想いや構想、ファンの期待や願いを汲み取った作品であるといえ、歴代『スパイダーマン』へのリスペクトがしっかりと反映されている。

 そして、歴代スパイダーマンとヴィランが同じユニバースで集結するというこの奇跡は、マーベルとソニーが協力したことにより成された奇跡である。

 MCU作品史上、『スパイダーマン』映画史上のなかでも、最高傑作であるとの声が多数挙上がっている『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、マーベル・スタジオ創設当時から『スパイダーマン』シリーズを支え、繋いできた人々の功績なしでは実現できなかった世界であろう。そしてエンドロールのアラッドへのメッセージは、単に敬意を表すだけではなく、一部からの心ない発言を浴びることもあった彼への、ファイギなりの表現なのかもしれない。

 ネット上では、映画を鑑賞したファンからは、アヴィ・アラッドに感謝を表すメッセージがみられる。アラッドは、単なる映画プロデューサーではない存在であり続け、これからも『スパイダーマン』ユニバースの可能性を広げていくだろう。

参考

・https://www.polygon.com/22841674/spider-man-no-way-home-avi-arad-credits-explained
・https://deadline.com/2019/03/avi-arad-marvel-blade-spider-man-morbius-toys-1202576569/
・https://www.notablebiographies.com/news/A-Ca/Arad-Avi.html
※1.https://comicbook.com/marvel/news/venom-producer-avi-arad-spider-man-3-accepts-blame/
※2.https://deadline.com/2010/01/urgent-spider-man-4-scrapped-as-is-raimi-and-cast-out-franchise-reboot-planned-21993/
  https://www.denofgeek.com/movies/sam-raimi-spider-man-4/
※3.https://collider.com/the-amazing-spider-man-3-story-villain-marc-webb/
※4.https://deadline.com/2019/08/kevin-feige-spider-man-franchise-exit-disney-sony-dispute-avengers-endgame-captain-america-winter-soldier-tom-rothman-bob-iger-1202672545/
  https://edition.cnn.com/2019/10/05/entertainment/tom-holland-spider-man-bob-iger-jimmy-kimmel-trnd/index.html

■公開情報
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
全国公開中
監督:ジョン・ワッツ
脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル
出演:トム・ホランド、ゼンデイヤ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョン・ファヴロー、ジェイコブ・バタロン、マリサ・トメイ、アルフレッド・モリーナ、ウィレム・デフォー、ジェイミー・フォックス
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題:Spider-Man: No Way Home
(c)2021 CTMG. (c)& TM 2021 MARVEL. All Rights Reserved.
公式Twitter:https://twitter.com/spidermanfilmjp
公式Facebook:https://www.facebook.com/SpiderManJapan/
公式Instagram:https://www.instagram.com/spidermanfilm_jp/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@sonypicseiga

関連記事