月9と月10はライバル関係? 『ミステリと言う勿れ』『ドクターホワイト』への期待
月10(フジテレビ系月曜夜10枠)にドラマ枠が戻ってきた。“戻ってきた”と書いても、ピンと来る人は少ないのではないか。おそらく多くの視聴者にとって月10は、SMAPのバラエティ番組『SMAP×SMAP』(以下、『スマスマ』)が放送されていた枠として記憶されているのだろう。だが、1985年から1996年までの月10はカンテレ(関西テレビ)制作のドラマを放送する枠だった。復帰第1作となった『アバランチ』もカンテレ制作のドラマで、今まで火曜夜9時台で放送されていたカンテレドラマ枠が移動し、リニューアルオープンとなっている。これはフジテレビにとっては原点回帰と言える編成だ。
当時の月10は、人気作家の原作小説を1話完結で放送するサスペンス枠で、90年代に入るとトレンディドラマブームの流れに乗って沢口靖子主演の『ホテルウーマン』や裕木奈江主演の『ウーマンドリーム』といった連続ドラマも作られた。月9に較べると大人向けで、異色のドラマが多いというのが当時の月10の印象だった。今考えると、それこそが「カンテレらしさ」だったのかもしれない。
1996年の1月クールでドラマ枠が終わり、同じ年の4月15日からはじまったのが前述した『スマスマ』だった。同日にスタートした月9(フジテレビ系月曜夜9時枠)のドラマが山口智子と木村拓哉が主演を務めた『ロングバケーション』だったことは有名な話で、SMAPを軸にした月9とフジテレビの新時代はここから始まった。
その後、『スマスマ』が2016年末に終了すると、月9とフジテレビは苦境に陥り、80年代以降、流行の最先端を突き進んできたフジテレビは新しい道を模索することになる。その結果、生まれ変わったのが現在の月9である。
未解決事件を題材にした刑事ドラマ『絶対零度』、人気海外ドラマの日本版となるリーガルドラマ『SUITS/スーツ』、法医学者を主人公にした刑事ドラマ『監察医 朝顔』、診療放射線技師を主人公にした医療ドラマ『ラジエーションハウス~放射線科の診断リポート~』。これらの作品はテレビ朝日で人気の職業ドラマをフジテレビ流に咀嚼したもので、1話完結で安定した面白さがあり、シリーズ化もされている。
華やかな恋愛ドラマが主流だった昔の月9が好きだった視聴者には、今の月9は保守的で他局の後追いに見えるのかもしれない。だが、本数を重ねるにつれて月9ならではのカラーも生まれつつある。それは仲間同士の楽しいやりとりで、過去の月9で言うと木村拓哉主演の『HERO』にあったテイストだ。2021年の4月クールに放送された竹野内豊主演のリーガルドラマ『イチケイのカラス』は、まさに令和版『HERO』と言えるドラマだったが、今の月9は過去作の良さを取り入れた上で、現代の視聴者に受ける要素を掴みつつある。