『キングスマン:ファースト・エージェント』が達した新境地 戦争映画として確かな重厚感
結局、戦場に行ったどころか自分より階級の低い兵士になりすまして前線に行ってしまったコンラッド。彼が命懸けで伝令使を担いで豪まで戻ってくるまでに、何度も死にかけては生き残ったため「さすがに主人公枠は死なないよな」というフィクションならではの安心感を抱くも束の間、最悪の伏線回収により死んでしまった。自分の名前を伝えることもできたはずなのに、成り代わったアーチー・リードに名誉を譲ろうとしたのか彼の名前を口にしたことで、本物のリードを知る男に銃殺されてしまった。戦争の悲劇は、眉間を打たれて倒れるコンラッドという、衝撃的で涙なくして観られないシーンをもって表現される。この時点で、我々は彼の身を案じるオックスフォードに感情移入をしているため、コンラッドの死が本当に悲しくてやるせない。その悲しさは、監督のマシュー・ヴォーンがキャラクターを映画の中でしっかり愛着ある人物に育て上げたことの成功を意味しているのだ。
こんなふうに中盤で描かれた「戦争の悲劇」という展開は、後半の「オックスフォードの覚醒(キングスマンの誕生)」の動機となって映画は進んでいく。彼らが何としても戦争を止めたい理由を、私たちはもう知っている。息子のような若者を、もう一人たりとも無駄死にさせない。その想いが我々のよく知る「キングスマン」の設立に繋がっていくのは感慨深い。
『キングスマン』映画としての要素も健在
これまでのシリーズとは違って、戦争映画という他ジャンルをバランスよく介在させただけでなく、しっかりと“キングスマン要素”もあるのが、『ファースト・エージェント』の素敵なところだ。シリーズに欠かせないクレイジーな思想のヴィランの登場、そして後半のファインズの目を見張る剣術(だいたいのスタントは自分でやったらしい)に限らず、先述のラスプーチンのバレエを取り入れた芸術点100点のバトルシーンから、戦場のサイレンスコンバットと、本作は終始『キングスマン』に欠かせないキレキレのアクションシーンが満載だ。カメラワークはいつも通り最高で、何より今回はクライマックスのソードバトルで「剣先アングル」というマニアックなショットも魅せてくれた。
加えて、後に繋がっていく『キングスマン』シリーズの重要な記号の回収も忘れない。「マナーが紳士を作る」という有名なセリフは、まさかのラスボスのものだったし(お前が言うんかい!)、亡きコンラッドのコードネーム「ランスロット」をアーチー・リードが継いでキングスマンの創始者になったのもグッとくる。シリーズの顔とも言えるエグジー(タロン・エガートン)とハリー・ハート(コリン・ファース)が不在でも、引けを取らない魅力的なキャラクター(ポリーとショーラが最高!)と、歴史の新解釈とも言えるユニークな視点によって、『キングスマン』は食傷せずに新境地に辿り着けたように思える。
■公開情報
『キングスマン:ファースト・エージェント』
全国公開中
監督:マシュー・ヴォーン
出演:レイフ・ファインズ、ハリス・ディキンソン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movie/kingsman_fa.html