高橋一生「露伴は自分の運命と戦っている」 1年ぶりの『岸辺露伴は動かない』撮影を終えて
高橋一生が主演を務める『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)の新シリーズ(第4話〜6話)が、12月27日から29日までの3日間にわたり今年も放送される。
2020年の年末放送では、生粋の原作ファンをも唸らせ、荒木飛呂彦による『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズを知らない層へも広く話題となった本作。「2021年1月度ギャラクシー賞月間賞」を受賞し、続編が待望視されていた中での8月の新作発表だった。
今回もメインキャストは続投。自身が演じる岸辺露伴を、敬愛を込めて「露伴ちゃん」と呼ぶ高橋一生に、昨年「続編、、希望!!!」とツイートしていた泉京香を演じる飯豊まりえのコンビは健在だ。ジョジョファンもシビれる脚本を手がけた小林靖子に、細かな演出を施し高橋が絶大な信頼を寄せる渡辺一貴をはじめとした製作陣も集結している。
撮影が開始されたのは今年9月。エピソード発表前からそのスタイルの良さに「橋本陽馬だ」と話題になっていた笠松将に、背中を見せない乙雅三を奇妙に演じる市川猿之助、事前番組『私の岸辺露伴語り』(NHK総合)でも「露伴先生と結婚したい」と溢れるジョジョ愛を語っていた大郷楠宝子を演じる内田理央と各話ゲストも「納得」の人選だ。
リアルサウンドでは、主演の高橋にインタビュー。「ずっと岸辺露伴という人間から離れないでいることができた」という高橋に露伴がもたらした影響、さらに高橋自身も期待を寄せるシリーズの「次」を予感させる内容となった。(渡辺彰浩)
「納得」は全てに優先する
ーー高橋さんが『岸辺露伴は動かない』第4話~第6話の撮影に入る際に意識したことはありましたか?
高橋一生(以下、高橋):露伴という人間が第1~3話が終わった後にも、人間として活動をしていたという感じは出したいと思っていました。前回を経ての今回の露伴であるということはもちろん意識しているんですけれど、第4話~6話を観てから、第1~3話を観られるような。露伴としての実像生活の息吹が所々に感じられるようになっていればいいなとは思っていました。準備から始めると丸々1年くらい、ずっと岸辺露伴という人間から離れないでいることができたのはとても幸福な時間でした。反響が良かったということはいろいろなところから耳にしていて、嬉しい気持ちはもちろんあったのですが、浮かれられない感じはありました。心の中で静かに盛り上がってはいたのですが、粛々とお芝居をしていきたいなと。また今回、露伴邸の中のデザインがほとんど変わっていなかったことも、お芝居をする上で助かった部分でした。僕が露伴を生かし続けていたのと同じように、スタッフのみなさんも露伴を生かし続けてくれていた、とてもありがたい現場でした。
ーー「ずっと岸辺露伴という人間から離れないでいることができた」というのはどういった感覚なんでしょうか?
高橋:役は時間がたつと所作から何から少しずつ薄れていって、自然に抜けていくんです。ただ、露伴においてはそういうものが抜けなかった。高校生のころから好きだったキャラクターを自分の内側に落とし込んでいく作業ができるとは思っていなかったので、それが身についていつもより離れなかったという感じでした。僕が離れたくなかったのかもしれないですけれど。また、露伴を通じて今までにない体験をすることができたというのも自分の中に鮮烈に残っていたんじゃないでしょうか。役を演じるということは、おおよそ日常では経験できないようなことを疑似体験するわけです。第2話で露伴は志士十五(森山未來)の中にくしゃがらを見つけて、そのわけのわからないものに対してずっと喋っているんです。傍から見るとそれは眠っているような男に向かってひとり恐れ慄いているという画になるわけです。第1話の「富豪村」にしても、一究(柴崎楓雅)と対峙している時に右腕が代償として失われていくんですけれど、冷静に見たら大人が子供と口喧嘩しているようにしか見えない。それらはこの作品でないとできない不思議な体験ではあったので、なんだか自分の中に残っています。
ーー岸辺露伴という存在が、高橋さんに影響を与えている部分も?
高橋:多分にあるのではないでしょうか。岸辺露伴という人間像に出会ってから、露伴の一挙手一投足に大きな魅力を感じています。突き詰めてしまうところ、好奇心が何よりも勝ってしまう感覚は、僕の中にも存在していると思います。
ーー露伴はリアリティを追求する漫画家ですが、そこに関してはいかがですか?
高橋:リアリティは各々の中に存在しているので、自分の中で体験したことないことは嘘になってしまうし、嘘っぽいことも現実に起こったらそれはリアリティになっていく。リアリティはそれくらい曖昧なものだということを露伴は理解していると思いますし、僕も理解していたいと思います。「『納得』は全てに優先する」(『ジョジョの奇妙な冒険』第7部「スティール・ボール・ラン」の主人公 ジャイロ・ツェペリのセリフの一部)と言いますけれど、自分のリアリティを追求していくことがどれだけ大事かは生活の中で意識するようにしています。
ーー今回も音楽は菊地成孔さんが担当されています。
高橋:音楽を菊地さんにお願いしているということは、演出の(渡辺)一貴さんから早い段階で聞いていました。その日は「くしゃがら」の古本屋での撮影をしていて帰り道に菊地さんの音楽を聴きながら帰りました。ペペ・トルメント・アスカラールなど、これまでも菊地さんの作品は聴いていたので、こういう世界観でいくんだなと想像が膨らみました。音楽は重要なファクターだと思っているので、早い段階で一貴さんとその世界観の共有ができたことはとてもよかったと思っています。今回の露伴のテーマタイトルが「大空位時代」。タイトルからして僕は非常に好きで、「大空位に露伴はいる」という菊地さんのコメントは、役を演じる上でも血肉になるワードだなと思っていました。大空位時代とは、空白の政権の時代を言うんですけれど、そこに露伴はいる。菊地さんはそういう風に感じてくださったんだという喜びがありました。露伴は孤高であり、独自であるということ。しかも彼はずっとそこにいるという感覚は、役を演じる上で肉付けの一つになったような気がしています。