『青天を衝け』脚本・大森美香がタイトルに込めた想い 「この人生を駆け抜けてほしい」

草なぎ剛の芝居を観て「慶喜は本当にこういう人だったんじゃないかなと」

ーー大森さんが脚本を書いていて自分でも思いがけない方向にペンが進んでいったというような人物はいましたか?

大森:対峙する相手によってどんどん変わっていく栄一さんの表情がとにかく魅力的で、中でも栄一さんと慶喜さんのシーンは、もっともっと見たいという気持ちになりました。あと、川村恵十郎さんは波岡一喜さんのお芝居を見て刺激を受けましたね。撮影が進んでいくとスタッフのみなさんも登場人物にどんどん愛情を持ってくださって、「この人にこういうことを喋ってもらいたいなぁ」というようなアイデアをたくさんいただくようになりました。喜作(高良健吾)さんにはぜひ明治になってからも活躍してほしいね、とか。中でもみなさんの愛情が強かったのはお千代(橋本愛)ちゃん。私も橋本さんのお千代さんに惚れ込んで筆がどんどん進みました。

ーー慶喜を演じる草なぎ剛さんの演技はどのようにご覧になられていましたか?

大森:第2回で慶喜さんの能面が外れたところから、ずっとびっくりしながら観ていました。もしかしたら慶喜は本当にこういう人だったんじゃないかなと、草なぎさんを見て思わされることも多くありました。私の中での慶喜像は「サービス精神が旺盛ではないことから、何を考えているか分からないと思われがち。でも、悪い人ではない」というイメージだったのですが、まさに草なぎさんの慶喜からそれが滲み出ていました。中でもそれがよく表れていたのが円四郎さんと2人のシーンだと思います。実は愛情深く、お父さん(斉昭/竹中直人)のことも大切に思っている人なんだなと伝わってきて、すごくいい慶喜さんになっていきそうだと思いました。

ーー吉沢さんがインタビューの中で、慶喜との最後のシーンはこの作品のテーマを語っているかのような泣けるシーンと言っていたのですが、そこの場面に込めた思いを教えていただけますか?

大森:慶喜さんは自ら戦わずして大政奉還したことで天璋院(上白石萌音)さんをはじめ多くの人に恨まれ、生き辛い思いに駆られながらもギリギリの思いで踏みとどまり、生きていくこともまた使命と思って晩年まで過ごされたと想像しています。最終的には慶喜に「生き長らえてよかった」と思ってほしい。吉沢さんがそうおっしゃっているということはすごくいいシーンになっていると思うので、私も観るのが楽しみです。

ーー物語の後半では岩崎弥太郎(中村芝翫)や五代友厚(ディーン・フジオカ)など、明治の実業家が登場しました。

大森:現代には「こういうことをしたらわが身が危ない」とか「世間から叩かれる」と思って萎縮してしまう風潮がある気がしますが、岩崎さんにも五代さんにもそういった外聞は一切気にせずに「自分が何かを作り上げよう」という前向きなパワーがあったと思うんです。『あさが来た』のあさ(波瑠)さんもそうでしたが、栄一さんも「他人がどう思っているか」とか、「偉い人の前では頭を下げよう」とかそういうことを気にせず突っ走っている。明治の人たちは変わろうという気概があるので、書いていて楽しい時代です。

ーー五代さんは『あさが来た』に続いてディーン・フジオカさんが演じました。『あさが来た』と『青天を衝け』での五代とで違いを意識した部分はありましたか?

大森:『あさが来た』では、ヒロインのあささんから見た五代さん像として、教えてもらうべき人生の先輩でした。ただ実際の五代さん自身はあささんからは見えないところですごく面白い人生を送った方で、機会があればそこをもう一回描きたいと思っていたんです。『青天を衝け』の栄一さん目線で改めて調べてみると、「西の五代、東の渋沢」と呼ばれることももちろんありますが、『あさが来た』で描いた時代以前の、幕末の志士としての活躍や葛藤を見せることができると思いました。さらに栄一さんにとってはライバルであり、生涯の友でもあるので、新しい五代さんを描くことができると、今回楽しみにしていました。また、甘い顔だけじゃない五代さんも魅力に映るかなと思っていましたね。

ーー演じられたディーンさんはいかがでしたか?

大森:『あさが来た』と比べて、大人かつクールな一面を持った五代さんの姿が見られて、ディーンさんありがとう、と思いました。私がより描きたかった五代友厚としての魅力は、商人としてこの時代を駆け抜けた『青天を衝け』にあるかもしれないと思っています。本当は五代さんももっと書きたかったんですけどね。

ーー五代友厚を主人公にしたドラマを描きたいとも思いますか?

大森:五代さんが薩摩から長崎海軍伝習所に派遣されてからの話は相当面白いと思いますし、そこから薩英戦争でイギリスの捕虜になったりと、興味深い面がまだまだ沢山あります。実は五代さんをはじめ、小栗忠順さんなどこの時代には主人公として描いてみたい人が多くて困ってしまいます(笑)。

■放送情報
大河ドラマ『青天を衝け』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00~放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00~放送
出演:吉沢亮、小林薫、和久井映見、村川絵梨、藤野涼子、高良健吾、成海璃子、田辺誠一、満島真之介、岡田健史、橋本愛、平泉成、朝加真由美、竹中直人、渡辺いっけい、津田寛治、草なぎ剛、堤真一、木村佳乃、平田満、玉木宏ほか
作:大森美香
制作統括:菓子浩、福岡利武
演出:黒崎博、村橋直樹、渡辺哲也、田中健二
音楽:佐藤直紀
プロデューサー:板垣麻衣子
広報プロデューサー:藤原敬久
写真提供=NHK

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