『ハンオシ』『カムカム』など引っ張りだこ 名バイプレイヤー前野朋哉の“フィット力”

 そんな前野は、冒頭に記しているように“名バイプレイヤー”である。バイオグラフィーをたどってみると、「あ、あの映画の、あの役の人だ!」となることもあるのではないかと思う。映画にドラマにと引っ張りだこな存在だが、これはいまに始まったことではない。特に『桐島、部活やめるってよ』(2012年)への参加から活動が活発で、出演作が途絶えることがないのが現状だ。神木隆之介、橋本愛、東出昌大、松岡茉優、仲野太賀ら現在のエンタメ界を支える面々がキャストに名を連ねていた同作に、当時20代半ばであった前野も参戦。主人公・前田涼也(神木隆之介)の親友にして愛すべき映画オタク役を好演し、多くの支持を得た。それ以前にもいくつもの作品に出演しているが、この作品で彼の存在を認識した方は少なくないはず。それからの活躍ぶりは先に記しているとおりだ。

 現在出演中の3作は、まったく異なるものである。ジャンルも、作風も、演じる役のタイプも、作品中における立ち位置も、そのすべてが違う。前野朋哉という俳優は、“フィット力”とでも呼べるものが非常に高いのだと思う。それは作品に自然と適応してみせる力のことだ。『勝手にふるえてろ』(2017年)の大九明子監督作品には、『でーれーガールズ』(2015年)、『甘いお酒でうがい』(2020年)、『私をくいとめて』(2020年)に出演と、いわば“常連”だが、演じる役どころはどれも異なる。ここから、前野の適応力の高さに作り手が期待を寄せ、愛されていることがうかがえるだろう。2022年公開の大九監督最新作にも出演しているため、どのようなポジションを担うのか気になるところだ。また、前野自身も監督業をやっているので、“作り手の視点”をより理解していることも俳優としての大きな強みになっているのかもしれない。

 さて、この2021年の秋冬は、前野朋哉の優れたプレイヤーぶりを堪能できる機会となっている。このような状況は一時的なものでなく、来年以降も続いていくものだろう。年末年始はそれに備えて、前野のキャリアの“振り返り”の時間にあててみるのもいいかもしれない。

■放送情報
火曜ドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:清野菜名、坂口健太郎、倉科カナ、高杉真宙、深川麻衣、田辺誠一、前野朋哉、中川翔子、笠原秀幸、小林涼子、森永悠希、長見玲亜、岡田圭右、木野花
原作:有⽣⻘春『婚姻届に判を捺しただけですが』(祥伝社『フィール・ヤング』連載中)
脚本:田辺茂範、おかざきさとこ
演出:金子文紀、竹村謙太郎ほか
プロデューサー:松本明子、那須田淳
編成:宮崎真佐子(※「崎」は「たつさき」が正式表記)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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