『ハンオシ』『カムカム』など引っ張りだこ 名バイプレイヤー前野朋哉の“フィット力”
『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系/以下『ハンオシ』)、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)、さらには『真犯人フラグ』(日本テレビ系)にと、今クール放送のドラマに出ずっぱりの前野朋哉。これらの情報だけでも分かるように、あらゆるタイプの作品から必要とされる名バイプレイヤーだ。それぞれの作品で異なる顔を見せており、その器用さには驚かされるばかりである。
『ハンオシ』は、“偽装結婚”した男女の関係を見つめたもの。清野菜名演じる明葉と坂口健太郎演じる柊が偽装夫婦に扮し、前野は柊の兄・旭を演じている。変わり者の弟とはあらゆる点において正反対であり、明るく包容力のある人物だ。本作は、そもそもの物語が風変わりなラブコメディー。中心に立つ明葉と柊も関係性からして特異であり、脇を固める者たちまで突飛な演技をしてしまっては、作品全体が取っ付き難いものとなるだろう。そこで前野が担っているのは、風変わりな物語の進行を許容し支える、作品のベースとなるような役どころ。ある種の“普通”を演じる彼の存在がかえってスパイスになりながら、印象的な屈託のない笑顔を武器に、このラブコメディーをよりハートウォーミングなものにしている。
『カムカムエヴリバディ』で前野が演じているのは、父(世良公則)とともに、岡山にある喫茶店「Dippermouth Blues」を切り盛りする息子の健一。見せ場は多いわけではないが、作品を構成する大切なピースとして、3世代にわたるヒロインたちの物語の序章に寄り添ってきた印象だ。物語が戦争の時代へと本格的に突入すると姿を見せなくなってしまったが、ヒロイン・安子(上白石萌音)との関わりは決して浅いものではないだろう。前野が朝ドラに出演するのは、『あまちゃん』(2013年)、『マッサン』(2014年〜2015年)、『わろてんか』(2017年〜2018年)に続き、これで4度目。特に『わろてんか』では長い期間、物語のムードメーカーの一人として作品の中心に立ち続けた。健一の役回りの変化にも期待が持てる。
そして、ある家族の失踪事件に端を発するミステリー『真犯人フラグ』での前野は、謎の男・中村充を演じているのだが……正直、この存在ばかりはまだ掴めないでいる。その役どころとは、たびたび登場しては主人公・凌介(西島秀俊)をつけまわす人物。公式サイトのキャラクター紹介には、“凌介をつけている謎の男。10年以上前に凌介と接点があったはずだと思っているが……”と記されているが、あまりに情報が少なすぎる。しかし、その姿を見ていて興味を引かれる存在ではあるし、彼がダークホースだという可能性もあるだろう(……いや、彼は不穏な佇まいが印象に残る人物だが、不意をつかれた際に見せるアタフタぶりは、さすがに犯人のそれではないか……)。