重厚な作品を多数輩出、WOWOW「連続ドラマW」 『地の塩』などでディープな世界を堪能

 重厚な物語と芝居で魅せるWOWOWドラマ

 WOWOWの「連続ドラマW」は、大人の視聴者に向けた重厚なドラマを多数輩出しているドラマ枠だが、社会派テイストのミステリー・サスペンスドラマに傑作が多い。

 例えば、井上由美子脚本の『地の塩』は、遺跡発掘調査の過程で13年前に殺害された女子高生の遺骨が掘り起こされたことから始まるミステリードラマだ。

 物語は、前期旧石器時代の異物を発掘した功績が教科書に掲載される考古学者の神村賢作(大泉洋)の遺跡発掘から始まり、刑事の行永太一(田辺誠一)が捜査する殺人事件の全容が明らかになっていくのだが、殺人事件の謎と同じくらいスリリングなのが、遺跡発掘を巡る人間ドラマ。

『地の塩』(c) 2008-2013, WOWOW INC.

 石器時代の遺物を発掘した神村は考古学の世界では「ゴッドハンド」(神の手)と讃えられている。しかし話が進むにつれ、遺物発掘は神村の捏造ではないか? という疑惑が広がっていく。つまり、殺人事件と同じくらい(捏造をおこなったかもしれない)神村の存在がミステリーとなっているのだ。何より神村を演じる大泉洋の芝居がとても不穏でミステリアスだ。俳優としてはコミカルな三枚目という印象が強い大泉だが、本作では理想に燃える考古学者をシリアスに演じている。考古学に対する想いを語る神村の姿にはカリスマ性があり「この人の言うことなら信じられる」という気持ちになるのだが、だからこそ「どっちなの?」と不安になっていく。この緊張感が最終話まで続くため、ミステリーとしてはもちろんのこと、考古学に興味がある人なら必見の社会派サスペンスである。

 『地の塩』を筆頭にWOWOWには重厚なサスペンス作品が多く、どの作品も簡単には結論を出すことができない、なんとも言えない後味が残る。

 それぞれの作品が刑事やマスコミの視点で一つの事件を追いかけ、事件を通して彼らの職業倫理を問うという構成になっているのだが、中でも面白いアプローチだと思ったのが『インフルエンス』だ。

『インフルエンス』(c) 2008-2021, WOWOW INC.

 近藤史恵の同名小説(文春文庫刊)を映像化した本作は、小説家の及川トモミ(鈴木保奈美)の元に現れた「私の体験した話を小説にしてほしい」と言う女性を語り部に、ある殺人事件に関わった3人の女性の数奇な運命を描くミステリー型式の青春ドラマ。

 幼い時から男の欲望に翻弄されてきた彼女たちの姿を通して女性差別が蔓延する日本社会を炙り出している。

 女性たちを演じるのは、橋本環奈、葵わかな、吉川愛の3人。子役の時から活躍する吉川愛や連続テレビ小説『わろてんか』(NHK総合)で主演を務めた葵わかなの上手さはある程度予測していたが、何より驚いたのは橋本環奈の存在感だ。

 バラエティ番組や映画『銀魂』でみせたコメディエンヌとしての印象が強かったため、こんなに抑制された芝居ができる人なのかと知って驚いた。

 『地の塩』の大泉洋もそうだったが、他のドラマや映画で見慣れている俳優がWOWOWのドラマに出演すると「こんな複雑な表情を見せるのか!」と驚かされることが多い。

 地上波のプライムタイムで放送されている連続ドラマだと、作り手が「わかりやすさ」を優先していることから、芝居が大味になってしまうことが多い。しかし、WOWOWのドラマなら「抑制された表情」や所作の細かいズレによって感情の揺れを表現することができるのだ。重厚な物語はもちろんだが、何より芝居と映像が繊細さに目が行く作品である。

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