杏「一瞬一瞬は決して無意味ではない」 大きな時代のうねりを前に感じる“希望”とは

 日曜劇場『日本沈没ー希望のひとー』(TBS系)で描かれるのは、想像を超えた危機的状況に直面した人々がそれぞれの正義を主張し合う姿だ。「人命第一」と言いながらも、経済が破綻すれば助けた生命をつなぐことができない。人命か、それとも経済か。そのジレンマの中で最適解を導き出すことの難しさは、現代のパンデミックと重なる部分もあり、観ていてヒリヒリする展開が続く。

 そんな本作で、主人公・天海(小栗旬)と共に戦う記者・椎名実梨役を好演しているのが杏だ。少々強引な手を使ってでも、目的を果たそうとする正義感の強さは、天海と似た者同士でもある。政界の中で奮闘する天海に対して、一般人としてできることを模索していく、もうひとりの主人公とも言える活躍を見せている。

 ついに恐れていた関東沈没が始まるショッキングな展開が訪れた。国民に知らせるという大きな壁を突破したものの、記者として官僚としてピンチに追い込まれた2人が、これからどのようにして「正しい」と思うことにトライしていくのか……。物語のキーを握る椎名の役を杏はどのような思いで演じているのか、そして大きな時代のうねりを前に彼女自身が感じている「希望」についても聞いた。(佐藤結衣)

権力を持たない椎名が、一矢報いる大きな矢に

――ついに、第4話で関東沈没が始まってしまいましたね。

杏:そうですね。この作品に関しては撮影のあとからCGが足されることもあり、4月にクランクアップしていたので、今は視聴者目線で毎週楽しみに見ています。撮影は経験したけれど、少し時間が空いたことと特殊効果によって「こういう感じになったのか!」と。

――沈没していく東京の風景をご覧になっていかがでしたか?

杏:やっぱり自分が知っている景色が変わってしまうのは、得も言われぬショックがあるといいますか。今見ているものや今あるものは続かないのだなというのは、『世界遺産』(TBS系)のナレーションをさせていただく中でも感じていたことで……。放送開始して25年の歴史の中で、番組で撮影した映像の景色が「紛争や災害などで、すでに見られなくなってしまったものがある」というのもお聞きしたことがありました。日本は特に災害大国ではありますが、世界中どこにおいても、目の前の景色がずっと続くものではないということを、改めて感じさせられるシーンでしたね。

――いつ起こるのかわからない日本沈没への恐れと、記者としての使命感の間で揺れ動く椎名を演じられて、どのようなことを感じられましたか?

杏:実際の社会で起きている混乱と、リンクしているような感覚はあるなと感じました。1年半前のパンデミックが起こるかわからないかのときのザワザワとしていた世相と、作品の中で描かれる日本沈没の危機と、置き換えても全部成立するようなセリフがたくさん出てくるんですよね。何をどこまで伝えれば国民を安心させる対応になるのか、それとも逆にパニックを招いてしまうのか。官僚や記者のやり取りはリアルなのかもしれないなと。日本沈没に関しては「さすがに起こらないだろう」とドラマとして楽しみつつも、「この気持ちはすごくわかる」みたいな共感や緊張感を持ちながら観られる作品になったんじゃないかと思います。

――第3話では記者としてかなり強引な手段を取る場面もありましたね。編集長にスクープを潰されたときの表情が怒りに満ちていて印象的でした。

杏:盗聴については「その方法どうかな?」と思いましたけど、きっとそれも彼女の正義感の強さゆえなのかなと(笑)。でも、やっぱり椎名の中には情報が権力でもみ消されてしまうことへの憤りが大きかったんじゃないかと思いますね。人命がかかっていると椎名はすごく強く思っているので。「なぜこの情報を出さないんだ」と編集長にも官僚たちにもすごく憤ったんだと思います。でも、持たざるものが一番怖いですよね(笑)。権力を持たない椎名が、飛び道具じゃないですけど、一矢報いる大きな矢となったのは、情報社会の中では大きな役目を果たしているように思いました。

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