『トップガン』は30年以上経っても全く色褪せない トニー・スコット監督の“アメリカ魂”

 アメリカ海軍のエリート飛行士たちの成長と戦いを描いた、スカイアクション映画の決定版といえる大ヒット作『トップガン』(1986年)が地上波放送される。本来なら、30年以上ぶりの続編『トップガン マーヴェリック』の劇場公開に合わせた放送を想定していたはずだが、そちらは2022年に公開延期となってしまった。いずれにせよ、久々に地上波で、アクション大作『トップガン』が観られることを歓迎したい。

 本作『トップガン』は公開当時、そのミュージックビデオを想起させる演出か、はたまたビーチバレーの享楽的なシーンが影響したのか、批評家の反応がそれほど良いものとはいえず、ともすれば“ハリウッドの大味なアクション映画”の代表と揶揄されることもあった。しかし時代が経つうちに、そんな評価は完全に間違いだったことがはっきりしていく。なぜなら、30年以上の年月の洗礼にさらされながら、本作の魅力は全く色褪せていないからである。

 20代のトム・クルーズが大きくブレイクすることとなった本作は、まだあどけなさが残る彼の魅力が炸裂することになった。F-14戦闘機のコクピットでの勇姿はもちろん、カワサキのバイクで疾走したり、得意の笑顔を駆使しながら、バーで意中の女性を必死に口説こうとする場面など、本作はまさに青春スター、トム・クルーズを際立たせる映画になっている。そして、本作の彼のイメージは、後の『ミッション:インポッシブル』シリーズをはじめ、何度も繰り返し観客に親しまれることにもなるのだ。

 同時に、轟音とともに映し出される、空母から飛び立つ戦闘機や、空中でのドッグファイトなどが展開する圧倒的な映像は、これまでの映画の常識をはるかに超えた、前代未聞のものになっているといえよう。なぜなら本作では、アメリカ海軍の協力のもとで本物の戦闘機を飛ばし、それをそのまま撮影しているからである。この大スケールのアクション映画を製作したのは、この後も大ヒット作を飛ばし続けることになるドン・シンプソンとジェリー・ブラッカイマーだ。

 現在の映画では、危険なシーンをCGによるアニメーションや特殊効果で描けるようになり、たいていのイメージが自在に表現できるようになった。だが、本作のような本物の戦闘機を使った映像の凄みには、まだまだ追いついていないことが、本作を観れば理解できるだろう。その意味で『トップガン』は、映画史における最高峰のアクション映像を楽しめる作品なのだ。とくにいまの世代にこそ、この本物の映像がもたらす圧倒的な臨場感に衝撃を受けてほしい。

 忘れてはいけないのが、ケニー・ロギンスによる主題歌「デンジャー・ゾーン」や、チープトリックの「マイティ・ウイングス」、作曲を担当したハロルド・フォルターメイヤーらによるアンセム、そしてベルリンのバラード「愛は吐息のように」などの“80s”音楽だ。叫ぶようなエレキギターのサウンドを中心に、豪快かつ景気の良い、そしてロマン溢れる『トップガン』の世界が、これらの曲で彩られる。時代を代表する作品は、このように様々な方向で魅力を放っているものだ。

 また、主人公のライバル「アイスマン」ことヴァル・キルマーや、毅然とした強さと美しさを兼ね備えたパイロットの教官ケリー・マクギリス、後に「ロマンティック・コメディの女王」としてブレイクするメグ・ライアン、そして名優ティム・ロビンスなどが若い時代の姿で登場するのも見逃せない。

 物語は、インド洋上のアメリカの空母に、ミグ戦闘機が接近し、これを2機の戦闘機が牽制するスペクタルシーンから始まる。そのうちの一機に乗り込んでいるトム・クルーズ演じる“マーヴェリック”と“グース(アンソニー・エドワーズ)”のコンビは、背面飛行のまま降下し、相手の機体にぎりぎりまで接近するという、常軌を逸した曲芸を見せる。ミグは姿を消したものの、マーヴェリックと同時に飛行していた“クーガー”機は、過度の緊張から精神状態を大きく崩し、着艦することもままならないでいた。

 マーヴェリックは、自身と機体を危険にさらしながら、彼らの着艦を手助けする。その一件によってクーガーがパイロットを引退することで、マーヴェリックとグースは、敵機との航空戦闘(ドッグファイト)の技術を学ぶ、エリートパイロットのための訓練校「トップガン」への参加が決定する。そこは、氷のように沈着冷静な「アイスマン」などのライバルがひしめき、しのぎを削っている場であった。その中でもマーヴェリックは、機体を自分の体のように自在に動かす能力と、ルールを飛び越える発想力で頭角を表していく。

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