「続編映画」特有の問題を離れ業で解決 『ドント・ブリーズ2』で描かれた新たなテーマとは

 目の見えない高齢者男性が、高度な殺人スキルを駆使しながら迫りくる……。そんな斬新な設定が評判となったスリラー映画『ドント・ブリーズ』の続編作品『ドント・ブリーズ2』のブルーレイ&DVDが発売し、自宅で楽しめるようになった。

 世に「続編映画」は無数にあるが、その多くが前作と同じような内容に終始する場合があるなかで、本作『ドント・ブリーズ2』は、多くの観客を驚かせた前作に、さらなる驚きを加えることで、シリーズ全体の意味を変えることになった挑戦的な一作である。ここでは、そんな本作の試みや新たなテーマを読み取っていきたい。

『ドント・ブリーズ』(c)2016 Blind Man Productions, LLC. All Rights Reserved.

 街の代表的な産業である自動車の工場が相次いで閉鎖され、失業者を多く生むこととなった、アメリカの都市デトロイト。そのさびれた街で、若者たちが盗みをはたらこうと、安易な気持ちで目の見えない高齢男性ノーマンの家に侵入するという展開で、前作『ドント・ブリーズ』は始まった。

 若者たちにとって運の悪いことに、高齢男性ノーマンの正体は、かつて湾岸戦争で視力は失ったものの、卓越した殺しの技をいまも持った元軍人だった。視覚に頼らずとも、わずかな呼吸音に反応するほどの研ぎ澄まされた聴覚と、これまでに大勢の命を奪ってきた殺人術によって、逆に侵入者の側が追い詰められていくことになるのである。閉ざされた屋内の空間で、この殺戮者からどのように命を守るのか……。『ドント・ブリーズ』は、そんな“息もできない”緊迫したシチュエーションが、大勢の観客を戦慄させ楽しませた作品だった。

『ドント・ブリーズ』(c)2016 Blind Man Productions, LLC. All Rights Reserved.

 続編となった本作『ドント・ブリーズ2』では、その前作を観た者なら、思いもしなかった趣向が待ち受けている。なんと、あの残虐老人ノーマン側の視点からストーリーが進行し、命の危険にさらされた少女を救う存在として、活躍が描かれるのだ。ここで疑問に思うのは、ノーマンを主人公にするという突飛な試みを用いた娯楽映画が、果たして成立し得るのかという点だ。

 前作でノーマンは、過去に交通事故で失った娘との幸せを取り戻そうと、復讐のためとはいえ、ある女性に対して映画史上稀に見る、倫理的にも生理的にも“最悪な行為”を犯していた。映画の劇中で殺人が描かれることには、多くの観客がすでに慣れっこになっているところがあるが、このノーマンの凶行は、その独創性を含めて異常きわまりないものだ。前作を映画館で鑑賞した際、“その行為”がスクリーンに映されたときは、悲鳴があがるほど客席が“ドン引き”したことを、鮮明に覚えている。そんな最悪過ぎる男を主人公にした映画を、果たしてわれわれは楽しむことができるのか。

 しかし、本作の監督は、前作でフェデ・アルバレス監督とともに脚本を手がけていた、ロド・サヤゲス。今回もまた前作同様、このコンビによる脚本に、『死霊のはらわた』シリーズをはじめとしたホラー作品や、現在のヒーロー映画ブームの先駆けとなった『スパイダーマン』シリーズを成功させた映画監督サム・ライミのプロデュースが加わっている。前作『ドント・ブリーズ』を作り上げた彼らが、ノーマンの性格を安易に変更し、ただ単純に彼をヒーローとして描くような、薄っぺらいものにするわけがないのだ。

『ドント・ブリーズ2』(c)2021 DB2 Productions, LLC. All Rights Reserved.

 前作のラストから8年後、ノーマンは身寄りのない少女を引き取って“フェニックス”と名付け、自分の本当の娘として育てていた。その名からは、かつて彼が失った娘との生活や生きがいを“甦らせよう”とする、彼の心情が垣間見える。異常なのは、そのフェニックスに銃を使ったサバイバル術を仕込んでいるという点である。兵士として生き、孤独な生活を送ってきたことで、そんなものしか娘に教えられることができないのだ。しかし、この常軌を逸したノーマンの指導は、結果的に彼女の身を助けることとなる。

 そんなある夜、ノーマンの家に新たな侵入者が現れる。前作とは違い、今度は統制の取れた手強い武装集団である。しかも、この集団の目的は金ではなく、フェニックスを奪い去ることであるようだ。一人で家にいたフェニックスは、小さな体を活かし、教え込まれたサバイバル術を駆使して、次々に目の前に現れる侵入者の視界から逃れていく。そんな彼女の活躍を、緊迫感とともに映し出す長回しのシーンは、計算された撮影が駆使された、見応えあるものとなっている。さらに、帰還したノーマンの殺人術による、侵入者との熾烈なバトルも、観客の期待を裏切らない。

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