『きのう何食べた?』がごく普通な生活の根底に込めるテーマ 一番大切な家族を思って

 劇場版『きのう何食べた?』はテレビ東京系「ドラマ24」で放送された30分枠ドラマと同じく、街の小さな法律事務所で働く弁護士・筧史朗 (シロさん/西島秀俊)とその恋人で美容師の矢吹賢二(ケンジ/内野聖陽)の日常を描く。上映時間は120分とドラマ版よりもぐっと厚みがあるが、2人のごく普通な生活が描かれる点は、いい意味でドラマ版と変わらない。

 劇場版のテーマは「家族」。原作8巻以降の物語が描かれる本作では、登場人物全員の「家族」についての考え方を知ることができる。

 ケンジの誕生日プレゼントとして京都旅行をすることになった2人。はじめのうちこそ、ロマンチックすぎるシチュエーションに浮かれるケンジだが、いつものシロさんならありえない展開が続いたことで、この旅行が別れ話の前フリで、シロさんが死ぬのではないかと思い込む。この時の、ケンジを演じる内野の表情変化が面白い。素直に旅を楽しめなくなり、気が気でない……そんなケンジの心境が伝わってくるほど、旅の途中からケンジの笑顔がどんどんこわばっていく。監督・中江和仁のインタビュー(引用:「何食べ」劇場版はシロさん&ケンジのいわば“結婚”後の物語|シネマトゥデイ)によると、脚本に「(人形浄瑠璃の)曽根崎心中の道行である」と書かれていたとのこと。曽根崎心中は惹かれ合う男女が心中する物語である。ケンジの不安が膨れ上がっていくのに合わせて、BGMの能囃子が盛り上がり、最高潮に達したところで、緊迫した表情のケンジが「死ぬの?」の一言。この流れには思わず笑ってしまう。

 そんなコミカルなシーンから一転、シロさんの両親が正月にケンジにはもう実家に来てほしくないと言ったことが明かされる。謝るシロさんに対し、心配事が晴れて安心したように、その場ではケロッとした表情を見せたケンジだが、心の内ではやはり深く傷ついていた。ケンジは相手のことを大切に思うあまり、本心を押し隠してしまうことがある。シロさんから「怒っていいんだよ」と言われた時、ケンジは涙を堪えながら口元に笑みを浮かべようとしたが、堪えきれない。心に押し隠していた感情が溢れ出し、言葉に詰まりながら胸中を打ち明けるシーンからは、彼の優しさと傷心が感じられて切なかった。

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