エミー賞3冠『メア・オブ・イーストタウン』と、韓国の傑作ドラマ『怪物』の関係とは
日本ではU-NEXTで配信中の『メア・オブ・イーストタウン / ある殺人事件の真実』は、今年4月に米国のHBOで放送され、2021年の最高傑作の1本との呼び声が高い。放送エンターテインメントの最高峰と言われる第73回プライムタイム・エミー賞リミテッド・シリーズ部門で、ケイト・ウィンスレットの主演女優賞を含む3部門を受賞している。リミテッド・シリーズの作品賞と監督賞こそ『クイーンズ・ギャンビット』(Netflix)に明け渡したが、主演・助演女優賞(ジュリアンヌ・ニコルソン)、助演男優賞(エヴァン・ピーターズ)と演技部門の3部門が授けられたのは、脚本や演出も含んだ総合的な評価だと言える。
フィラデルフィア郊外の小さな町イーストタウンで、若いシングルマザーが惨殺される。警察署に勤務し、たいていの町民と顔見知りのメアことマリアンヌ(ケイト・ウィンスレット)は、郡警察から応援で駆けつけたコリン・ゼイベル刑事(エヴァン・ピーターズ)とともに事件解明に乗り出す。
『メア・オブ・イーストタウン』の舞台は、ペンシルバニア州チェスター郡イーストタウン。ショーランナーのブラッド・イングルスビーの故郷である実在の街をモデルに、ドラマでは隣のデラウェア郡に設定されている。そのためケイト・ウィンスレット扮するメアや街の人々はこの近隣の“デルコ・アクセント(Delaware County Accent)”で話し、英国出身のウィンスレットのアクセントは完璧だったとデルコの人々も認めている。
子どもたちと孫、実母と同居するメアをはじめ、離婚した夫、親友夫妻などメアの周囲の人々は、人生のほとんどをこの小さなコミュニティの中で過ごしている。狭く濃厚な人間関係で成り立つ小さな町で起きた殺人事件は、職住近接で些細なことまで知り尽くした人々が密かに抱える思いや、誰にも見せていない顔を暴くことになる。いくつかの事件の真相究明によってミステリーは解決するが、この小さな町で生まれ、育ち、この先もここで暮らすより他に選択肢がない人々に落とす影は消えない。その諦めのような覚悟が、メアを演じたケイト・ウィンスレットの表情やたたずまいに現れる。
イーストタウンを象徴するのは、不完全だけど全力で子どもを守ろうとする母親たちだ。殺されたシングルマザーも、刑事のメアに代わり家を守る老母も、メアの親友ローリー(ジュリアンヌ・ニコルソン)も、そして3人の子どもと1人の孫がいるメアも。母親/刑事の2つの顔を持つメアを演じたケイト・ウィンスレットは、先述のアクセントも含めリアリティを追求し、デルコの刑事になりきった。番組の宣伝用ポスターに写るノーメイクの肌や、ベッドシーンであらわになる下腹部を補正することを拒否し、1日の撮影が終わると衣装をセットの床に丸めて放置し、翌日に一晩かけて“汚し”が施された衣装を着用した。ウィンスレットがタイトルロールを演じているからだけでなく、彼女の貢献と存在こそがこのドラマの真髄だと言えるだろう。