『大豆田とわ子と三人の元夫』はどのようにして作られたのか? 佐野亜裕美Pが語り尽くす

毎話変わるエンディングは『エヴァ』や『呪術廻戦』からの影響も?

――「お嬢さん」と「社長」は重要人物なのに画面に登場しないですよね。唄(豊嶋花)の恋人の「西園寺くん」も声しか出ないですし。画面に出る人と出ない人の境界がわからなかったのですが。

佐野:坂元さんのドラマって、「刑事A」や「男1」みたいな人が出てこないんですよ。西園寺くんも、深く掘り下げて人間性を書けないのに装置として出すのが嫌だったんじゃないかと思います。

――映像として登場するかどうかという判断は、どの辺りで決まるんですか?

佐野:今回は先にプロットを書いていたので、プロットの段階で「映像になります?」「話だけにします?」という質問をして、初稿を書き始める前には決まっていました。「やっぱりここ出してもいいですか?」とこちらから言う時や、逆に西園寺くんのように出す予定だったけど「やっぱり、声だけにしてもいいですか?」と言われることもあって、書きながら調整をしていくのですが、初稿の段階で一応の方針は決まります。

――画面に出ない登場人物は、坂元さんの意図どおりということですね。

佐野:坂元さんのドラマは回想やフラッシュを挟まないので、時系列順に書いていった時に「出てこないものは出ない」という感じですね。その判断に異を唱えることはあまりないのですが、見たい時は「えー、ここ見たいです」と言います。例えば「慎森(岡田将生)ととわ子の過去は見たいです」とか。

――あのシーンは出したかった?

佐野:『愛の不時着』でジョンヒョク(ヒョンビン)がアロマキャンドルを持って現れるエピソードがあって、「こんなにときめくなんてすごい」みたいな話になったんですよ。それで「今回はアロマキャンドル的エピソードをちゃんとやりましょう」と坂元さんから言われて。

――キュンキュンさせないといけない?

佐野:今回は「胸キュンも大事だから」と言って、自分たちの過去を振り返ったんですよ。「一番の胸キュンはバックハグじゃないですかね」と坂元さんから言われて、「人生でバックハグされたことない」と思ったり。このドラマにおいてバックハグがありえるとしたら「慎森ととわ子の過去にしかない気がする」って話になって、じゃあ、それは入れようとなりました。

――恋愛ものは得意なんですか?

佐野:得意じゃないですね。あまり興味もないです。恋愛ものを作りたいと思ったこともなかったですし。

――『まめ夫』は恋愛ドラマでは?

佐野:ロマンティックコメディです。ラブではないんですよ。恋愛ドラマをいろいろ観て、弱っている時に看病してもらうのは鉄板だという話になり、第9話で転んだ慎森をとわ子が看病する場面を入れたりしたんですけど、私の中にはないものですね。胸キュンもやろうとしたけど、あんまりできなかった。

――八作が靴下の穴に気付く場面は「胸キュン」に近いものを感じましたよ。

佐野:(松田)龍平くんは少しわかるんですよ。一度お仕事して彼の人間性を知っているので龍平くんの胸キュンは想像できる。龍平くんって「とんだ人たらし」なんですよ。「とんだ人たらしエピソード」はたくさんあるので、それを坂元さんに伝えました。普段本当に「やっほー」とか言ってるんですよ(笑)。

――第1話の工事現場のシーンですね。

佐野:人との距離感が絶妙で、もう「ドSの天然」なんですよ。人類最強です。龍平くんの魅力については語れるし、胸キュンエピソードはいくらでもイメージできるんですけど、その人を知らない状態で「視聴者はこういうのを望むのではないか」という胸キュンは思いつかないし、あんまり興味がないです。苦手なんでね。苦手なことをがんばっても仕方がない。

――僕にとって『まめ夫』って靴下の穴なんですよ。おしゃれな場面もたくさん登場するけど、最終的には「靴下の穴に気づくかどうかなんだな」と思いました。

佐野:ありがとうございます。

――あと、パーカーの紐を通してあげるエピソードも良いですよね。

佐野:本打ちの時に坂元さんから「僕、ちゃんとストロー買ってやりましたから」と、すごいニコニコした顔で言われて。こういうところが素敵で、坂元裕二という人の真髄はここにあるんだなって思いました。

――エンディングテーマが毎回違うのは『新世紀エヴァンゲリオン』のエンディングテーマ「FLY ME TO THE MOON」を観て思いついたそうですが。

佐野:『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開に向けてNetflixで過去作を予習していたんですよ。そしたら、オンエアの時は気づいてなかったけど、エンディングテーマにいろんなバージョンがあることを知って「なるほど」と思って。同じものを流しているので仕方がないのですが、『カルテット』の時はエンディングテーマでどうしても視聴率が下がっちゃったんですよね。でも、エンディングも本編の一部じゃないですか。そこを毎回同じにするのは「制作として怠慢だなぁ」と思って。あと、アニメの『呪術廻戦』も観ていたのですが、OPがちょっとずつ変わっていて。

――エンディングにも「じゅじゅさんぽ」というおまけアニメがありました。

佐野:『呪術廻戦』も「なるほど」と思って「そんなに囚われなくてもいいんだなぁ」と思いました。相談した藤井健太郎さん(TBSプロデューサー)からも「出演するラッパーを毎回変えてもいいかもしれない」と提案されて、最終的にああいう形になりましたね。

――以前、影響を受けた作品として『エヴァ』を挙げていた記事を読んだのですが、作り手として『エヴァ』に影響を受けた部分はありますか?

佐野:設定厨なので設定も好きでしたけど、テレビドラマはそこまでできないので「キャラクターを魅力的にする」ということが一番影響を受けた部分ですね。物語って膨大にあって、新しい発明なんて滅多にできないので「キャラクターを愛してもらうこと」がドラマを見続けてもらえる一番の動機なんじゃないかと思うんですよ。あとは1話の中の情報量はできるだけ詰め詰めにするということですね。

――放送当時、『エヴァ』も熱狂的に語られましたが、『カルテット』と『まめ夫』の語りたくなる感じは、『エヴァ』とすごく似ているなぁと思います。

佐野:いろいろ語ってもらえるのはありがたいことですよね。そういう豊かさが生まれる理由については意識したことはないのですが、みんなで意見を持ち寄って作ってきたからだと思います。

――今回は一つの達成だったと思うのですが、『まめ夫』でやったことは今後、他の作品でも生きていくと思いますか?

佐野:フリーの人や初めて組む人を集めていっしょに作れたことの学びは多かったです。他にもまだ、いっしょにやってみたい人がたくさんいるので、それを束ねていくためにはどういうことをやればいいのかということが、一番勉強になったと思います。あとは、主題歌も含めて自由な発想をしても受け入れてもらえるんだなぁと思いました。まぁ、失敗したこともいっぱいありましたけど、この経験を生かしてもっともっと面白いものを作れたらと思います。

――今のテレビドラマの、しかも民放のプライムタイムから、こういう作品が生まれる豊かさが、まだテレビドラマにはあるんだなぁと驚きました。

佐野:それはもう、関西テレビのおかげですよ。次はSFをやるんです。

――テレビドラマで?

佐野:SFと言っても「ちょっとだけ」ですけど。私、作りたい作品がいっぱいあるんですよ。『賢い医師生活』を観ていると、こういう医療ものも作れるんだなと思いますし。

――今回、Netflixで配信されている海外ドラマに言及されることが多かったのですが、海外ドラマを別物とは考えず、遜色のないドラマを作りたいという思いが、佐野さんの中にあるのでしょうか? 

佐野:今は別物だけど、いっしょに並んでも恥ずかしくないものをいつか作りたいと思っています。海外ドラマは勉強も兼ねて視聴者として楽しく観ています。今の水準のものを見るより先を行っている人たちを見る方が勉強になるので。

――坂元さんとの次回作は?

佐野:どうなんですかねぇ。坂元さんはなかなか「書く」と言わないので、お互いに「やりたいことが見つかったら」という感じですかね。坂元さんがこの後「テレビドラマを書くのかなぁ」というのもありますし。テレビドラマには必要な方なので「まだ、引退しないでください」と説得し続けるしかないですよね。やってくれるかどうかは「神のみぞ知る」ですが、私は5年に1回ぐらいはやりたいです。

――佐野さんご自身は、今後もドラマを作り続けたいとお考えですか?

佐野:45歳まではがんばろうと考えています。あと5~6年ですね。今やりたいことをやっていくと45ぐらいになっちゃうんですよ。だからそれまでは頑張って、その後、どうするかは考えます。海外の制作チームと作ってみたいとか、色々とやりたいことはあるので、チャンスを広げていけるようにがんばりたいと思います。

■リリース情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
11月5日(金)Blu-ray&DVD-BOX発売

【Blu-ray】
価格:28,800円(税別)
仕様:2021年/日本/カラー/本編473分+チェインストーリー61分+特典映像179分/16:9 1080i High Definition/音声:リニアPCM2.0chステレオ(特典一部モノラル)/2層/日本語字幕(本編のみ)/本編全10話+チェインストーリー全10話/4枚組(本編ディスク3枚+特典ディスク1枚)

【DVD】
価格:23,400円(税別)
【仕様】2021年/日本/カラー/本編473分+チェインストーリー61分+特典映像179分/16:9LB/DISC1~5片面1層、DISC6・7片面2層/音声:ドルビーオーディオ2.0chステレオ(特典一部モノラル)/日本語字幕(本編のみ)/本編全10話+チェインストーリー全10話/7枚組(本編ディスク5枚+特典ディスク2枚)

【特典映像】
・大豆田とわ子と三人の元夫×脚本・坂元裕二 座談会
・ロングメイキング集
・劇中音楽制作・坂東祐大×主題歌プロデュース・STUTS 対談
・撮影秘話続々!スタッフインタビュー

【音声特典】
・第1話オーディオコメンタリー(松たか子×岡田将生×角田晃広×松田龍平)

【封入特典】
坂元裕二書き下ろしエピソード付きブックレット

出演:松たか子、岡田将生、角田晃広、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、オダギリジョー、近藤芳正、岩松了
脚本:坂元裕二
音楽:坂東祐大
主題歌:STUTS & 松たか子 with 3exes「Presence」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
発売元:カンテレ
販売元:TCエンタテインメント
(c)2021カンテレ

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