『おかえりモネ』全120話を終えて “ただそこにいるヒロイン”が成し遂げた未来への祈り

『おかえりモネ』最終回で描かれた“未来”

 『おかえりモネ』の大きな特徴のひとつが、主人公・モネの立ち位置だ。これまでの朝ドラヒロインの多くは“周囲を巻き込み状況を変える”役割を担って物語の中にいた。だがモネはただその場に存在する、そして静かに他者に寄り添う。誰かを変えようとはしない。

 新次は自らの祈りで心の変化に気づき、亮は自分と同じ痛みを抱えた未知の想いを受け止め、ともに歩むことを決める。また、登米のサヤカ(夏木マリ)は己の意思で大木を切ることを選択したし、莉子(今田美桜)は自身の弱点を克服して夢へのステップアップを果たした。主人公が強いアクションを起こさなくとも、彼らは自分で選び取ったそれぞれの道を生きている。朝ドラ史上、他者にここまで直截的な影響を与えず“ただそこにいる”ヒロインはモネ以外いない。

 とうとう最終回までその姿を現さなかった宇田川さんもこの作品で紡がれてきた作り手の思いを象徴する人物のひとりだ。

 モネの東京での下宿先・汐見湯に暮らしながら、その姿をモネたちに見せない彼は深夜にひとり、銭湯を磨く。最終週で東京の大学に合格した未知への祝いの言葉が書かれた垂れ幕の字は、おそらく彼の手によるものだろう。姿を見ることはなくとも優しい関係性は続く。前に進むことは元に戻ることとイコールではない。美波の死を受け止めた新次は漁師には戻らずに土で苺を育てる仕事に喜びを見つけ、病の手術でプロとしての道を断たれた宮田(石井正則)は、ボイラー工事の仕事をしながら子どもの前でホルンを吹く。どこかで折れそうになったその先も人生は続いていく。

 『おかえりモネ』の最終週で、2020年2月まで時計が進んだ時に、すべての人間が当事者となった今の状況がどう描かれるのか少し怖かった。菅波(坂口健太郎)は呼吸器系を専門とする医師である。東京と気仙沼とで離れて暮らすふたりが共に生きることは可能なのかと。

 が、物語はそんな不安を軽々と超える強度を見せた。モネの心の傷を形にしたもの=楽器を彼女がふたたび手に取ってから“数年後”、菅波は気仙沼の海までモネに会いに来た。コインランドリーで束の間の逢瀬を楽しんでいたのと変わらないテンションのモネに菅波は言う「あなたと僕は違う時空に生きているのか……2年半、会ってない」。モネは答える「わたしたち、距離も時間も関係ないですから」。

 冒頭に「今はとても晴れやかな気持ちだ」と書いた。それはきっとこの作品が最初から最後まで“希望”や“再生”を描き、最終回ではそこに“未来”を乗せてくれたからだろう。丁寧に紡がれ、わたしたちも丁寧に見守ってきた『おかえりモネ』が終わってしまったのは寂しいが、本当に清々しいドラマだった。たくさんのギフトを受け取った。

 最後に、モネに気象予報士としての扉を開いた朝岡(西島秀俊)の言葉でこの文章を閉じたい。

「信じて、続けることですね」

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』総集編
▼前編
12月29日(水)NHK総合にて15:05〜16:30
▼後編
12月29日(水)NHK総合にて16:30〜17:55

出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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