『おかえりモネ』全120話を終えて “ただそこにいるヒロイン”が成し遂げた未来への祈り

 『おかえりモネ』(NHK総合)が終わった。

 約半年、他の作業の手を止めて日々視聴してきた朝ドラ。モネ(清原果耶)が故郷の亀島に戻った頃から、最終回後はとてつもない“モネロス”に陥るだろうと覚悟していたが、今はとても晴れやかな気持ちだ。

 『おかえりモネ』は放送開始直後から、多くの視聴者が「あれ、この朝ドラ、これまでと全然違うかも」との印象を抱く作品だったと思う。なによりヒロインであるモネがとことん“普通”である。これまでの朝ドラでも『ひよっこ』のみね子(有村架純)や『ゲゲゲの女房』の布美枝(松下奈緒)のように、“なにかを成し遂げない”ヒロインは存在したが、彼女たちの前には記憶をなくした父親の失踪や信じられない貧乏生活といった、ドラマティックな仕掛けがあった。

 対して『おかえりモネ』で描かれたのは、自分の内側にある傷と、他者が抱える痛みとに静かに向き合うヒロインの姿だ。脚本の安達奈緒子は物語にわかりやすい事件や対立構造を入れ込まず、登場人物それぞれが背負った傷とどう対峙し生きていくのかを、静かに、そして丁寧に描き切った。

 そんな、ただそこに存在するヒロイン=モネと背中合わせで呼応し合うかのように、物語が進む中でもっとも大きな変化を遂げたのが、彼女の高校の同級生・及川亮(永瀬廉)とその父・新次(浅野忠信)だ。

 2011年3月11日、東北が未曽有の大災害に見舞われたその日、新次の妻、そして亮の母である美波(坂井真紀)は帰らぬ人となった。その喪失感と背負った後悔から立ち直れず酒に溺れる新次と、変わってしまった父の姿を受け止めきれず、孤独に悩み続ける亮。親子を心配し、周囲が差し伸べた手に対し、新次は吐き捨てるように言う「俺は絶対に立ち直らねえ」。

 新次が本当の意味で前を向くきっかけになったのは、亮の乗った船が嵐に遭い、港に帰ってこられなかった夜の祈り。必死にそして無意識に「亮を連れて行かないでくれ」と美波に祈っていたことで、いつの間にか自分が彼女の死を受け入れていたと気づいた新次は、美波の死亡届を出すことで、一歩前に踏み出していく。

 そして、亮。新次をふたたび船に乗せるために漁師になった亮は、酒に逃げた父親の世話をしながら、誰にも心の内を明かさず孤独な日々を生きていた。明るく他者を気遣いながら、じつは誰よりも深い闇を抱えていた亮。一時はモネにすがろうとするが、彼女はそれを受け入れず、さらに彼の目は深い水の底を見つめるようになる。

 亮の心のベクトルが大きく変わったのは、嵐から帰還し、モネと未知(蒔田彩珠)を前に「お前に何がわかる、そう思ってきたよ。ずっと、俺以外の全員に」。と、抱え続けてきた本音を初めて吐露した時。この日から彼は少しずつ自分の幸せを肯定的に考えるようになった。それまで父を支え、元の漁師に戻すことが自らの義務だと思い続けてきた呪いから解き放たれたように。

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