『恋です!』が提示する“真のバリアフリー” 令和ラブコメの作り手によるメッセージ

「黒川はバカみたいに単純で、ひとつのことしか見えなくなる猪突猛進なところがあって、やることが全部予想外だから、いっしょにいるとワクワクする」

 森生の「アホまっすぐ」な純粋さに突き動かされて、ユキコの新しい扉が開いてゆく。一人でバスに乗って知らない街まで行ってみる。一人で服を買いに行く。ハイヒールで歩いてみる。しかし、新しい扉が開いたのはユキコだけではなく、森生もなのだ。ユキコに恋することで、今まで見えていなかった新しい世界が見えるようになった。就職しようと一念発起するも、顔の傷や経歴を理由に不採用続きで、思わず「俺、生きてる価値あるのかな」とこぼしてしまった夜、鋭い心眼で本質を見抜くことのできるユキコに、存在そのものを肯定された。「人と人との関係性」というのものは一方通行ではない。常に相互作用だ。

 こうした「相互作用」が主人公カップル以外の人々、さらには社会へも波及してゆく。ユキコの影響で、お年寄りやハンディキャップを持つ人にとっての「不便さ」に目が届くようになった森生は、腐れ縁の獅子王(鈴木伸之)の祖母(茅島成美)がレンタルビデオ屋のセルフレジの前で困っているところを助け、彼女からとても喜ばれたうえに、「傷のひとつやふたつ、歳をとればいくらでもあるわよ」という言葉をもらい、救われる。さらに、バリアフリーへの目配りが買われて、獅子王が店長を務めるレンタルビデオ屋での職を得る。

 獅子王の「俺たちも必ず歳を取る。つまり明日は我が身ってことだ」という台詞にハッとさせられた。ユキコと親友の空(田辺桃子)が盲学校の帰りにいつも立ち寄るハンバーガーショップ「BBバーガー」の茶尾店長(古川雄大)が、彼女たちの耳に声が届きやすいよう、いつも「当然のように」しゃがんで話しかける姿に、このドラマの作り手の姿勢が見える。

 パッケージとしては「ポップなラブコメ」を貫きつつも、さりげなく、押しつけがましさなしに、とても大切なことを提示している。入り口は広く、入ってみたら深い。声高に“意識高い系”を謳いながら見かけ倒しの作品もあるなか、エンターテインメントの基本に忠実でありながら深遠なメッセージを発する、こうしたドラマは貴重と言えよう。ぜひ、全世代の人に観てもらいたい作品だ。

■放送情報
『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:杉咲花、杉野遥亮、奈緒、鈴木伸之、田辺桃子、細田佳央太、生見愛瑠、堀夏喜(FANTASTICS from EXILE TRIBE)、濱田祐太郎、ファーストサマーウイカ、戸塚純貴、古川雄大、岸谷五朗
原作:『ヤンキー君と白杖ガール』(うおやま/KADOKAWA)
脚本:松田裕子
演出:内田秀実、狩山俊輔
チーフプロデューサー:加藤正俊
プロデューサー:森雅弘、小田玲奈、鈴木香織(AX-ON)
主題歌:「こたえあわせ」JUJU(ソニー・ミュージックレーベルズ)
(c)日本テレビ

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