ティモシー・シャラメはなぜ特別? 『DUNE/デューン』でも発揮した他者を輝かせる才能

「あの少女たちと、誘われるような深い関係を知ることで、彼(ローリー)は成長することができたんだ」(ティモシー・シャラメ)(※1)

 大傑作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(グレタ・ガーウィグ監督/2019年)で演じたローリーという青年のキャラクターについて、ティモシー・シャラメは、ジョー(シアーシャ・ローナン)をはじめとする女性たちからの影響の深さに触れている。また、ローリーというキャラクターが、『若草物語』の書かれた時代に一般的な男性が持っていたようなジェンダー規範から著しく外れていることに関しても、「(ローリーが)若いうちに内面の美しい女性たちに出会えたからかもしれない」と分析している(※2)。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

 今年のカンヌ国際映画祭で、ティルダ・スウィントンの肩に甘えるようにもたれかかるティモシー・シャラメの愛されぶりがフォトコールで捉えられたのも記憶に新しい。ティモシー・シャラメは、ティルダ・スウィントンのような映画界の最前線に立つカッコいい女性たちから愛されているだけでなく、カッコいい女性たちから積極的に多くを学んでいることを、ことあるごとに表明、実行している。ハリウッドの先端を俳優、そしてプロデューサーとして身を削りながら走り続けているマーゴット・ロビーやエマ・ストーンへのとめどないリスペクト。そしてグレタ・ガーウィグとの師弟のような関係。最前戦を走る女性たちからの学びをここまで明確に表明、それを自身の俳優という創作活動にまで反映させているハリウッドのプリンスは、今も昔も記憶にない。それは時代に合っているということだけでなく、ティモシー・シャラメのキャリアや、演技そのものと深くつながりを持っている。『レディ・バード』(2017年)、そして『若草物語』で組んだグレタ・ガーウィグ監督との関係について、ティモシー・シャラメは次のように語っている。

「彼女には完全に畏敬の念を抱いています。彼女から学んだことをずっと話していたいくらい、彼女は素晴らしい人なのです」(※3)

『DUNE/デューン 砂の惑星』(c)2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

 前線に立つ女性から学び、それを実践していくティモシー・シャラメの姿勢は、最新作『DUNE/デューン 砂の惑星』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ/2021年)における母親(レベッカ・ファーガソン)との関係に至るまで貫かれている。ポール・アトレイデス(ティモシー・シャラメ)は、いつも視線を母親の動向に向けている。ポールは母親が手を使って送るサインをいつも注視している。『DUNE/デューン 砂の惑星』は、「救世主の誕生」までを描いた作品でありながら、主人公が宿敵を倒して大活躍するような分かりやすさからは回避されている。ここでは、ポールが予知夢を自らの手で打ち壊していくまでの過程が描かれている。しかしドゥニ・ヴィルヌーヴは、ポールの活躍よりも彼の周囲で起こる状況こそをダイナミックに描いていく。トンボのような形状をした「羽ばたき機」の激しく羽を動かす振動音が私たちの耳にこびりついて離れないように、ポールの周りにはいつも彼の見た予知夢の幻影が旋回している。

『DUNE/デューン 砂の惑星』(c)2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

 かつてドゥニ・ヴィルヌーヴは『ボーダーライン』(2015年)において、エミリー・ブラント演じるヒロインを、ただただ状況に巻き込まれていくヒロインとして描いた。ヒロインは活躍しない。そこでは過酷な任務に振り回されるヒロインの肖像だけが、エミリー・ブラントの傷ついた身体に浮かび上がっていた。物語の紡ぎ方としては、かなり特殊なスタイルといえる。

 同じように、『DUNE/デューン 砂の惑星』におけるティモシー・シャラメは、アイデンティティを獲得するまでの過程において、任務のために各地を赴いているだけのように見える。しかし彼の周囲では、いつもダイナミックなことが起きていて、いまにもこちらに襲いかかってきそうな圧巻の映像でそれらは表象されている。いつも母親の庇護にあったポールは、やがて母親をリードしていく立場に成長していく。少女たちと深く関わることで成長していった『若草物語』のローリーのように、ポールは母親に誘われるように深く関わることで、初めて自身の歩き方を獲得する。と同時に、それはそこに至るまで相対してきた相手=母親を最大限に輝かせるための距離感の創出にもなっている。息子の決闘を見守る母親は、ティモシー・シャラメとレベッカ・ファーガソンによる演技の構築、距離感の積み重ねによって初めて得られた美しい顔をしている。ここにティモシー・シャラメという俳優が、利他的に相手を輝かせることで自分も輝いていく面白さがある。

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