マーベルがヒーローたちの権利を失う可能性? 原作者の遺産相続人との訴訟問題を解説
今後数年で、マーベルはヒーローたちの権利を失うかもしれない。スパイダーマンやドクター・ストレンジ、ソー、アイアンマン、ブラック・ウィドウら有名キャラクターたちの契約期限切れが迫っているのだ。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)が世界的な成功を収め、これからも新たなフェーズを展開しようとしている今、マーベル・エンターテインメント、およびその親会社であるウォルト・ディズニー・カンパニーにとって、その権利を失うことは絶対に避けたい。そこで同社は原作者の遺産相続人に対して、訴訟を起こすことになった。ここではその経緯と、アメリカン・コミック特有の著作権の問題をまとめていきたい。
裁判の経緯
ことの発端は今年8月、アイアンマンやソー、アントマンなどの原作者、ラリー・リーバーがウォルト・ディズニー・カンパニーに対して、その権利を取り戻す通告を申し立てたことだった。そこへ、スパイダーマンやドクター・ストレンジなどの共同原作者であるスティーブ・ディッコの遺産相続者がつづいた。そしてブラック・ウィドウやホークアイを生み出したドン・ヘック、ブレイドやファルコン、キャロル・ダンバースの生みの親ジーン・コーランの遺産相続者たちも、同様の通告を申し出たのだ。もし権利が移行された場合、マーベルはスパイダーマンの権利を2023年6月に放棄しなければならないという。9月にディズニー/マーベルはこれに対抗するため逆に彼らを提訴し、ヒーローたちがクリエイター個々人ではなくマーベルの著作物であると主張している。今回権利移行の対象になっているヒーローのなかには、MCUではすでに死亡したキャラクターもいるが、コミックスにおいてはまた話が別だ。
アメリカの著作権法とこれまでのコミック関連の訴訟
ヒーローたちの原作者の遺産相続者たちが今回の通告の根拠にしているのは、1976年の著作権改正法だ。それによれば、著作者あるいはその相続者は、最初にキャラクターや物語が創作されてから60年が経てば、出版社からその権利を取り戻すことができる。これに対してディズニーおよびマーベルは、「これらのヒーローたちは“職務著作物”であり、権利移行の対象にはあたらない」と主張。“職務著作物”とは、雇用関係にあった従業員が職務の一環として創作した作品のことだ。また雇用関係になくても、委託などで契約書にその旨が明記されていれば“職務著作物”となり、著作権は会社のものになる。ちなみに日本の著作権法では、委託を受けて作成したものでも、雇用関係にない限り“職務著作物”とはみなされない。そのため日本の漫画家などは、基本的に自身が作品の著作権を保持し、出版権や二次利用管理などを出版社に委託することになる。
アメコミヒーローの権利をめぐる訴訟は、今回が初めてではない。2008年にはスーパーマンの生みの親であるジェリー・シーゲルとジョー・シュスターの相続人がDCコミックスに対して同様の裁判を起こし、やはり作品が“職務著作物”であるかどうかが争点となった。結果、シーゲル側の相続人は著作権の一部を取り戻している。2009年には、スパイダーマンやソー、ハルク、X-MENなどを生み出したジャック・カービーの遺族が権利移行を求める訴訟を起こした。しかしカービー側は2011年に地方裁判所で、2013年には上告裁判所で敗訴。原告は最高裁に再審を求めたが、その前にマーベルとの間で和解が成立した。ディズニー/マーベルは、今回の裁判もカービーのときと同じ状況だという見解を示している。