『キャンディマン』は人種差別の寓話として語られるホラー ジョーダン・ピール節も絶好調

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は小学生の頃に住んでいた家で、姿見に自分以外の黒い影が映り込んでいたのを見た時から鏡が怖いアナイスが『キャンデイマン』をプッシュします。

『キャンディマン』

 どこに行っても、鏡にまつわる怖い話ってあるものです。日本でも合わせ鏡をすると自分の死に際の顔が映るとか、鏡が霊の通り道、霊界への入り口であるとか様々な怖い話、言い伝えがあるでしょう。海外、特にアメリカの場合は「鏡に向かって特定の言葉を指定回数唱える」というのが定番です。10月15日から公開の『キャンディマン』も、そう。鏡に向かって5回、その名を唱えたものは、召喚されたキャンディマンに殺される。他にも、ブラッディ・メアリーというバージョンがありますが、こちらは3回なのでくれぐれも注意してください。海外ドラマ『スーパーナチュラル』のブラッディ・メアリー回が怖すぎて、今でもトラウマです。

 しかし、ブラッディ・メアリーが典型的な、この世に悔いや恨みを残した女の霊であるのに対して、キャンディマンは全くの別物であることが本作を通してよく理解できます。それが怪談話ではなく、“伝説”としてその町のブラックコミュニティの間で囁かれているわけも。

 この『キャンディマン』の脚本および製作を務めたのは、『ゲット・アウト』や『アス』で知られる、ジョーダン・ピール。言わずもがな、本作も彼のホラー作品に欠かせない人種的なサブジェクトがテーマになっています。特に“キャンディマン”という題材そのものが、近年高まるBLMムーブメントに欠かせないストーリーであると言っても過言ではありません。

 舞台は高級コンドミニアムが乱立するカブリーニ・グリーン。そこに引っ越してきた主人公の芸術家・アンソニーと恋人のブリアンナは、その地に起きた忌まわしい惨劇を“キャンディマン”という都市伝説を通して知ります。アンソニーはこの話に夢中になってしまい、創作活動の一環として自ら情報収集をはじめるものの、それが取り返しのつかない事態へと発展していくのでした。

 映画のオープニングをはじめ、本作では高層ビルやコンドミニアムを“下からの視点”で映すカットが多用されています。それは、本来そこに暮らしていたはずの非富裕層の視点でもあるのです。主に低所得の黒人が住んでいた安価な公営住宅地に白人が介入し、スラム化や老朽化を名目に取り壊して富裕層向けの街に作り変えた。このカブリーニ・グリーンはシカゴに実存した公営住宅で、映画の中で語られていたことは実際に起きた出来事なんです。それだけでも興味深い物語なのに、その街でまことしやかに囁かれるキャンディマンの伝説が映画により深みをもたらしている。奪われてきた過去、警察官の不正義、そういった黒人が白人から受けてきた暴力のトラウマや痛みの象徴がキャンディマンなのです。だから、怪談じゃなくて、“伝説”。見る人によっては神話と捉えるかもしれません。

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