綿矢りさが考える、リドリー・スコットが特別な理由  『最後の決闘裁判』にみる現代性

 リドリー・スコット監督最新作『最後の決闘裁判』が公開を迎えた。第70回アカデミー賞脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』以来のタッグとなるマット・デイモンとベン・アフレックによる脚本を、スコット監督が映画化。キャストにはデイモン、アフレックに加え、ジョディ・カマーとアダム・ドライバーという豪華布陣で贈る本作は、そのクレジットに違わない重厚な内容に仕上がっている。

 史実としていまだに真相不明なフランス最後の決闘裁判に至るまでを、事件を告発した被害者マルグリット(ジョディ・カマー)、その夫カルージュ(マット・デイモン)、訴えられた容疑者ル・グリ(アダム・ドライバー)という登場人物3人の視点でそれぞれ描くという脚本の構成の妙が光る本作。今回、リアルサウンド映画部では、数多くの小説が映画化されてきた小説家・綿矢りさにインタビュー。本作の流麗な脚本、反映された現代的な価値観、リドリー・スコットという作家の特異性まで語ってもらった。

「強い気概を感じました」

ーー映画好きとしても知られる綿矢さんですが、本作をどのようにご覧になりましたか?

綿矢りさ(以下、綿矢):自分が現代人として抱えている悩みや疑問を投影しながら観れる作品だと思います。自分もどこか登場人物と通じる部分もあれば、ギャップもあって。騎士道精神や権力構造が浸透していた中世フランスならではの価値観と自分を照らし合わせてみることで、人の世というものにいろんな疑問が生まれてくるんじゃないかな。登場人物も時代背景に合ったワイルドさを持ち合わせたキャラクターと現代的な観点で物事を考えるせいで生きづらくなっているマルグリットのようなキャラクターがいて。

ーーマルグリットの史実は実はあまり残っておらず、本作ではマルグリットの視点で描くにあたって、女性の脚本家であるニコール・ホロフセナーを入れたそうです。

綿矢:なるほど。私も男性視点で物語を描くときの最初は注意します。3人の視点で同様の物語を描いていく構成だから、余計マルグリットと2人の男のコントラストが際立ちますよね。決して、マルグリットを勇気に溢れる聖女のような“キャラクター”ではなく、1人の“人間”として描いた点も、クレバーで好きですね。だからこそ、ラストのマルグリットのシーンも効いていたように感じます。今、みんなが関心ある話題だからこそ、フラットに描こうとしたのかもしれません。

 

ーーなるほど。

綿矢:普段、自分はミニシアター系のアジア映画を観ていることが多いこともあってか、中世フランスが舞台の映画を観て、とても新鮮でした。スコット監督の『グラディエーター』とかは2000年公開当時大ヒットして非常に面白かった。でも、本作ではヒーローの存在が皮肉めいた厳しい視線で監督自身によって見つめ直され、更新されていて。監督自身が過去の作品を批判的な視線で見直して、これまで描いてこなかった英雄に翻弄される女性という存在を描くことに強い気概を感じました。マルグリットへの暴力のシーンを長回しで撮っているじゃないですか? あのシーンは、特にスコット監督の強い主張に見えました。リアルタイムで高校生の時に映画で観ていた監督がこういう作品を作ることに時代の流れを感じましたね。

ーー中世フランスが舞台だからこその独特な雰囲気も作用してそうです。

綿矢:そうですね。決闘裁判という行為自体が認められていた時代ならではというか。登場人物の貴族的な振る舞いの中にも血なまぐさい部分が時折顔を出したりして。自分にはできないですが、確かに映画が撮れるならこういうどこか違和感が生まれるような時代を描きたいと思います。もちろん、ゴシックの灰色と銀の抑制の効いた色調の中に、光り物や火が映えていたり、装飾のディテールの細かさもシンプルに綺麗ですし、引き込まれましたね。

ーースコット監督作品にはどんなイメージを持っていましたか?

綿矢:『エイリアン』だったり、『グラディエーター』だったり、とにかく「接近戦の迫力
が凄い!」というイメージがあって(笑)。やっぱり作品を観ていても思い出すのは戦いの
シーンが多いです。痛みがすごくリアルに感じられますよね。本作でもそうでしたが、戦闘
の音や唾液、息遣いといったディテールがリアルで、観ているこちらも固唾を呑んで見守ら
ざるを得ない容赦のなさがありました。

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