『おかえりモネ』が描いた当事者/非当事者の関係 “痛みを想像すること”で見えるもの

『おかえりモネ』痛みを想像して見えるもの

 菅波は、自分の助言のせいで人生を変えてしまった元ホルン奏者の元患者・宮田(石井正則)に偶然出会い、菅波の助言は間違いではなかったし、一度は恨みもしたが今の生活に満足していて、今ではホルンを吹けるようになったことを知る。非当事者として、罪の意識に囚われて生きていたが、当事者も当事者として前を向いて生きているのだとわかるシーンであった。

 この菅波の出来事と重なるように、百音にも光が見えはじめる。百音も気仙沼の家族のことを心配ばかりしていた。ある日、実家の牡蠣棚が被害にあったと知り、家族と連絡がつかないことを心配し、戸惑いながらも気仙沼に戻ると、家族は牡蠣の取り入れに忙しくて、百音の電話にも気づかないほどであったのだということがわかる。

 百音は、自分がいなくても気仙沼の家族が前を向いて進んでいることを見て、これまでの苦しさから少しだけ解放された。このことで、家族への負い目や罪の意識、自己犠牲からではなく、自分の本当に湧きあがった気持ちから、地元に帰って地元のために仕事をしたいと決意するのだった。

 しかし、当事者が過去に囚われていることから解放されることは容易ではない。それがより示されたのが第22週の放送ではないだろうか。

 百音の幼なじみで、新次の息子である及川亮(永瀬廉)は、震災で母を亡くしているし、船を失い海に出るのをやめてしまった父に代わり、漁師になった人物である。彼は、その土地で漁師になって生きるということに縛られて生きてきた。

 だから亮は、震災時に気仙沼にはおらず、気象予報士として東京で活躍していたにも関わらず、今は地元に帰って仕事をしている百音に対して複雑な感情を持っていた。百音に対して、「お前に何が分かる、そう思ってきたよずっと。俺以外の全員に」と叫ぶシーンもあるほどで、ずっとわだかまった気持ちを内に秘めて生きてきた。だから亮は常にその表情に悲しみが宿っている。

 亮と同じく、ずっと過去に囚われてきたのが、亮のことを思い続けてきた未知だったが、彼女もまた非当事者の百音に対してはわだかまりの気持ちを抱いてきたし、亮と同様、ときに強い言葉を百音に突きつける。しかしそれは、自分と亮が縛られていることを痛いほど知っているからであり、この2人の傷の深さと、2人が似た者同士であることを感じさせるのであった。

 しかし、亮も未知も、自分の言葉で自分の中に溜めてきた気持ちを表したことで、光が見えたのが、今週の放送であった。これから最後の2週間の放送で、傷ついた人たちが、その傷を忘れないで、いかに前に進むのかが描かれるのだろうと思えた。

 個人的には、菅波が百音に言う「あたなが抱えてきた痛みを想像することで、自分が見えてる世界が2倍になった」というセリフが、当事者と非当事者を結ぶ重要なことだと感じている。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00~8:15、(再放送)12:45~13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30~7:45、(再放送)11:00 ~11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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